研究課題/領域番号 |
16K16674
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
奈良 雅史 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (10737000)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | エスニシティ / 民族観光 / イスラーム / 中国ムスリム / 回族 / 雲南省 / 文化人類学 / エスニック・ツーリズム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、回族によるイスラーム復興運動の一環であった回族集住地域の景観のイスラーム化が、政府による少数民族地域の経済発展を目的とした観光開発と結びつき展開してきたプロセスを描き出し、そこで創出される観光活動を媒介とした民族関係の再編を明らかにすることである。 前年度までの調査によって、沿岸部との経済的格差がみられる少数民族が集住する雲南省などの少数民族集住地域の経済発展および少数民族の国民統合を主な目的とした政府主導での民族観光開発が行われてきたことにより、従来非ムスリムが訪れることの少なかった回族集住地域に国内外から多くの観光客がやって来るようになってきた状況が明らかになってきた。ただし、現地の回族をはじめとするムスリムたちの間には、礼拝を行う宗教活動場所への観光客の訪問に対する反発がある一方で、この機会をイスラームを布教するために積極的に利用しようとする傾向もみられた。 2017年度は、引き続き、中国雲南省昆明市および紅河州のモスクと回族を中心としたムスリム・コミュニティにおいて、ムスリム社会における非ムスリム観光客の受け入れ状況について現地調査を実施した。そこから、昆明市でのテロ事件を機に、民族観光を推進する傾向にあった中国政府が回族集住地域における民族観光を抑圧し始めた状況が明らかになった。しかし一方で、それにより知名度のなかった回族集住地域が耳目を集めることとなり、一層多くの非ムスリム観光客を集めている。 当該年度は、ムスリム・コミュニティ内だけではなく、政府との間にもコンフリクトをはらみつつ展開する民族観光の現場において、回族たちがいかに観光客の増加にいかに対処してきたのかを、改革・開放以降の回族のエスニシティの変化との関係から明らかにすることを試みてきた。その成果は、国内外の学会での口頭発表、および英語論文、中国語共著、日本語共著として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は、おおむね順調に進展している。昨年から継続してフィールドワークを実施し、現地における民族観光のあり方の変化についてデータを収集することができた。 また、2017年度は、2つの国際学会に参加し、英語および中国語で発表するとともに、英語論文、中国語共著、日本語共著としてその成果を発表してきた。そのため、当該年度は研究成果の国際化を図るとともに、研究成果の現地への還元を積極的に実施してきたといえる。 以上の理由から、当該年度は研究が順調に進んだとみなしうる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトでは、これまで2年間、フィールドワークを実施すると共に、その成果を国内外の学会や内外の雑誌論文、書籍として発表してきた。最終年度となる来年度は、これまでの調査データをまとめ、補足的調査をするとともに、政府の民族観光政策に関する文献資料調査を実施する。そうすることで、上述のように変化してきた民族観光をめぐる状況を多角的に捉えていきたい。また、これまでの調査研究を踏まえ、民族観光およびエスニシティに関する理論的考察を進めたい。
|