研究課題/領域番号 |
16K16678
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研究機関 | 多摩大学 |
研究代表者 |
韓 準祐 多摩大学, グローバルスタディーズ学部, 専任講師 (00727472)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 身体障害者 / 観光 / 旅行 / 余暇 / 阻害要因 |
研究実績の概要 |
2017年度には文献レビューと身体障害者の余暇活動に関するインタビュー調査を続けながら、津久井やまゆり園事件追悼式へ参列、電動車椅子サッカー大会、身体障害者や高齢者向けの旅行会社のパッケージツアー(2社・2商品)、バリアフリーの先進地域として知られる岐阜県高山市の調査を行った。 肢体障害者の大学生K君を対象にしたインタビュー調査では、旅行会社の募集型観光商品は利用したことがない反面、家族との旅行経験が豊富であることや週末に電動車椅子サッカーの練習やスポーツ観戦、演劇や公演鑑賞など活発な余暇活動を行う一方で、移動の面での制約から普段はテレビ視聴を夜遅くまですることもあると語る場面があった。 H.I.S社の静岡へのパッケージツアーは1泊2日の商品であったが、身体障害者と介助者のみならず、高齢者とその家族の参加が見られた。身体障害者と介助者の関係性もパッケージツアーを利用する身体障害者にとっては重要な側面で、付き添いの介助者が必要な場合、ツアーに参加する際に自ら介助者を指定するケースが多いことも確認した(最初、あるいは介助者が決まっていない場合、旅行会社に任せることもある)。添乗員には日本の旅行業界におけるバリアフリー観光の歴史と現状について聞き取りを行い、とりわけH.I.S社の取り組みの詳細について調査した。宿泊したホテルの従業員にもホテル内のバリアフリー施設の案内を依頼し見学する一方、利用客や身体障害者の利用現況等についてインタビューを実施した。 もう一つ調査した募集型観光商品は、クラブツーリズムの「杖・車いすで楽しむ旅」の枠組みの商品であった。ツアー参加者のなかにはクラブツーリズムの商品のみを購入している人や同旅行会社のツアーで知り合った介助者と関係性を築き、その後もツアーに参加する度に同じ介助者に同行を依頼する人もいた。両旅行会社を比較すると介助者の手配に違いが見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017(平成29)年度に予定していた身体障害者・高齢者向けの旅行会社の募集型観光商品に異なる大手旅行会社の2社のそれぞれのツアーに1回ずつ参加し、旅行会社の添乗員のみならず、介助者、ホテルの従業員、ツアー参加者に直接インタビュー調査を行い、ツアー参加者と介助者のコミュニケーションの取り方等も参与観察した。また、2つのツアーに参加し、各旅行会社の添乗員、介助者一名やツアー参加者一名とも連絡先を交換しインタビュー調査を依頼できるような関係性を築くことができた。その他、高山市への現地調査や津久井やまゆり園事件追悼式へ参加を通じて、バリアフリーの現状や障害に対する社会的認識についても幅広く文献レビューをしながら考察することができた。 インタビュー調査に関しては、身体障害者本人への調査を集中的に行ってきた。所属校の学生1名とは1年間何度かインタビュー調査を行い、彼の趣味ともいえる電動車椅子サッカーの全国大会を見学し、彼とのラポールも構築しつつ、旅行・観光に限らず、余暇活動全般について率直な意見を聞けるようになっている。その他、所属校の学生2名(車椅子使用する男子学生1名と車椅子を使用しない女子学生1名)に関しても、インタビュー調査に応じてくれることを確認しており、2名からも自らの旅行・観光の経験及びその際の阻害要因となったことからはじめ、余暇活動に関しても聞き取りを行う予定である。 最後に、上記のパッケージツアーへの参加やバリアフリーの先進地域への調査に加え、インタビュー調査、文献レビューを通じて、身体障害者の旅行・観光の現状と阻害要因に関するアンケート調査の項目を絞ることができた。2017(平成29)年度に予定していたアンケート調査は、2018(平成30)年8月から9月にかけて、まず身体障害者本人への調査をはじめ、その後、身体障害者の保護者及び介助者を対象にした調査を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り文献レビューと身体障害者本人に対するインタビュー調査を継続しながら、その家族や介助者を対象とするインタビュー調査を行う。また、身体障害者本人とその保護者及び介助者を対象とする「旅行・観光の現状と阻害要因に関するアンケート調査」を実施する。その際、所属校の学生とその保護者から調査をはじめるが、他方では以前から調査している大分県別府市にある自助グループ(ぐっどらいふ大分)のメンバーにも直接調査を依頼し、回答を得ることにする。その際、身体障害者の年齢、性別、経済的状況等の違いを踏まえ、比較分析できるように、別府市の社会福祉法人・太陽の家にも依頼をする。 8月9日・10日に行われる日本福祉のまちづくり学会の全国大会に参加し、知見を広げる一方で、福祉を専門とする研究者との意見交換を行う。9月までには、大手旅行会社のツアー以外のNPO法人が企画・実施する旅行プランにも参加し、旅行会社及びNPO法人の身体障害者と高齢者向けの商品や取り組みの比較分析の結果をまとめ、日本観光研究学会の全国大会で発表を行う(2018年11月あるいは12月予定)。 必要に応じて身体障害者の旅行にかかわる旅行会社の添乗員や介助者、身体障害者の保護者を対象にしたインタビュー調査を行いつつ、アンケート調査の結果分析も行う(SPSS使用)。2019年1月からはそれまでの研究成果を報告書としてまとめる一方、その一部を観光関連学会へ論文として投稿し査読を受ける。
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