研究課題/領域番号 |
16K16680
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
稲村 一隆 弘前大学, 教育学部, 講師 (40726965)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 方法論 / 弁証術 / アリストテレス / 倫理学 / 政治哲学 / 定義 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、西洋倫理学の起源であるアリストテレスの倫理学・政治哲学の方法論の検討を行った。特に本研究はアリストテレスの若い頃の作品だとされる『エウデモス倫理学』の方法論に着目した。この著作の第1巻第6章では、倫理学の議論の出発点として、「真実ではあるが曖昧な見解」を取り上げて、「人々に認識しやすいこと」をつねに取り上げながら、「真実であるとともに明晰な見解」へと仕上げていく必要性が述べられている。本研究はこの方法論が「幸福」という曖昧な道徳概念を明確化するのに実際に『エウデモス倫理学』の中でどのように用いられているのかを検討した。さらに本研究はアリストテレスの晩年の作品とされる『ニコマコス倫理学』の方法論との違いも検討した。『ニコマコス倫理学』においても、「人々に認識しやすいこと」を取り上げながら、抽象的で難解な概念を明晰化していく必要性が述べられるが、重要なことに第1巻の方法論のテクストでは「真実ではあるが曖昧な見解」から出発する必要性については言及されていないことが明らかになった。こうした事実をもとに、本研究は、『エウデモス倫理学』の方法論の方がより詳しくて厳密なものであり、『ニコマコス倫理学』では一般向けの読者を想定しているために簡略化されたと結論付けた。この成果は2016年11月にルーマニアのブカレスト大学で開かれた2400 Aristotle conferenceで口頭発表し、研究成果をまとめて8,000 wordsの論文を執筆し、古代哲学関連で有力な英文の学術誌に投稿して、査読中である。さらに平成28年度は弁証術の基礎にある哲学的論理学、特にアリストテレスの定義論やそれに影響を受けた現代の定義論の研究を行い、その初期の研究成果を英国のアリストテレス協会の年次大会や分析哲学史学会にて口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の研究計画ではアリストテレスの方法論を検討することが主眼であったが、その計画に加えて、現代の道徳心理学の研究状況や論理学の定義論も調査し、その初期の研究成果について学会発表を行なったので、研究計画以上に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、アリストテレスの方法論の基礎を明らかにするために、以下の三つの作業を中心に行う。(1)ソクラテスやプラトンの方法論と対比することで、アリストテレスの方法論の歴史的背景を探ること。(2)アリストテレスの倫理学の方法論の基礎にある哲学的論理学の研究を行うこと。(3)現代の道徳心理学関連の研究を参照することで倫理的規範概念の特性を明らかにすること。以上、三つの作業を行うことで、倫理学方法論の歴史的背景、論理的基礎、経験科学からの裏付けを探求することが今後の課題である。
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