研究課題/領域番号 |
16K16680
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
稲村 一隆 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (40726965)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 方法論 / 弁証術 / 分割法 / アリストテレス / プラトン / 思想史 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は古代ギリシアの弁証術という方法論の探求である。平成29年度は、当初の研究計画の通り、アリストテレスの方法論に対するプラトンの分割法の影響を探求した。というのも、アリストテレスの『エウデモス倫理学』の方法論や『政治学』の六政体論はプラトン後期の著作に影響を受けているからである。本研究では『分析論後書』や『動物部分論』での分割法批判を検討した結果、分類の手法として分割法は批判されているが、概念の明晰化の手法としては有用であり、実際、倫理学方法論として利用されていること、また分割法に依存していない仕方でプラトン『ポリティコス』の六政体論をアリストテレスは応用していることを明らかにした。この点の研究成果については、それぞれ論文の一部の中に組み込み、現在、英文の学術誌で査読中の状態である。また29年度は、方法論の応用としてケンブリッジ学派の政治思想史方法論も弁証術の観点から検証した。というのもケンブリッジ学派のクエンティン・スキナーの方法論は古代ギリシアの弁証術に影響を受けたガダマーの解釈学やドナルド・デイヴィドソンの言語哲学に影響を受けているからである。本研究は特にスキナーの「思想史の影響関係」の概念に着目し、それが因果関係と混同されているため、思想解釈の方法を把握するためにはあまり有効ではなく、むしろ弁証術のように対話の一形態として過去の思想に接近するやり方を検証した。この研究成果は2017年の11月にチェコのプラハで行われた共和主義の政治思想学会で口頭発表を行った。さらに29年度は、弁証術に対する現代の認識論やメタ倫理学からの批判を検証し、現代の規範倫理学方法論としての妥当性の検証を進めたり、ソクラテスの弁証術がJ.S.ミルの方法論に与えた影響を調査したりした。こうした点の研究成果を翌年度の学会発表や論文投稿で研究成果を公表する準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の29年度の計画では、ソクラテスの弁証術やプラトンの分割法がアリストテレスの方法論に与えた影響を探ることであり、この点についてはすでに原稿を執筆し、論文の中に位置付けることができたので、予定通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画では、アリストテレスの方法論を認識論や言語哲学や現代の倫理学方法論の観点から特徴づける予定である。また弁証術が後世どのように受容されたかの歴史も調査する予定である。研究成果の発表方法として、国内外の学会報告を複数回行う予定がすでにたてられているが、30年度以降は、論文を海外の有力ジャーナルに掲載することに主眼をおいていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では国際学会での発表を二回、行う予定であったが、一回しか行うことができなかったため、さらに一回のチェコへの往復航空券の費用を比較的低額に抑えることができたため、次年度使用額が生じた。30年度は国際学会での発表を二回、国内学会での発表を一回、すでに予定しているため、そのうちの一回の出張旅費に使用する予定である。
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