最終年度のため研究成果の公表に努めた。まずアリストテレスの分類の方法論について、日本哲学会において公募ワークショップ「政治的な事柄をいま哲学するということ:アリストテレス『政治学』を再読する意義の検討を手がかりとして」を複数の研究者とともに開催し、その会場での議論をまとめた研究ノートを『教養諸学研究』(早稲田大学政治経済学術院編、2020年)に公表することになった。また中国のSun Yat-Sen UniversityのGlobal Justice Lectureに招待され、講演を行なった。 次にアリストテレスの弁証術を利用した方法論がどのようにジョン・ロールズの反照的均衡に応用され、認識論的にどれほど妥当なものなのかを検証した論文がUniversity of Bucharestの論文集に掲載されることになった。 また現代の観点から古典を読むことの困難さの一例として、「主権sovereignty」の概念がどれほどアリストテレスの中に読み込めるのかを検証した。結果として、一つの要素の類似点だけに着目して論じることは時代錯誤に陥りやすく、また用語を手がかりにするのも必ずしも適当ではなく、概念枠を全体として捉える必要性があることを論じた。これについては Reading Texts on Sovereignty (Bloomsbury)のBook Chapterとして掲載されることになった。 さらにアリストテレスの互恵性概念には相互利益だけではなく、役割の交換という意味もあり、そうした役割転換には認識の拡張や共感を促し市民の徳の涵養に貢献する側面があることを指摘し、研究会や図書で研究成果の公表に努めた。 他にアリストテレスの『エウデモス倫理学』の方法論について検証した論文と、概念の定義をする手法について検討した論文二つは現在、海外の有力な学術誌に投稿して査読中である。
|