本年度は、前年度の準備作業によって明確化された存在論的諸概念をもとに、世界全体の存在論的身分と形而上学的本性をめぐる考察に取り組んだ。まず、世界全体がもっとも基礎的な存在者であると主張する一元論的立場を世界の実体性に関する主張として擁護するための具体的方策を、現代物理学の知見に基づく存在的構造実在論をもとに展開する方針を検討した。それを通じて、「実体」概念に基づく形而上学的一元論を、存在的構造実在論の示唆する全体論的立場として捉え直すことができることを明らかにした。次に、世界全体が備える階層的構造を「形而上学的基礎づけ」概念によって明確化する作業に取り組んだ。それを通じて、基礎づけの事実そのものの基礎づけにまつわるパラドクスを、世界全体があらゆる否定的真理を存在論的に基礎づけると主張する立場に基づいて解決する見通しが得られた。そのうえで、クワイン的メタ存在論と新マイノング主義的メタ存在論の対立を、絶対的無制限量化と「存在」概念を関係づける仕方の対立として捉え直す作業に取り組んだ。それを通じて、新マイノング主義的メタ存在論の眼目を、「基礎づけ」概念に依拠して基礎的存在者と派生的存在者を区別する新アリストテレス主義的メタ存在論によって明確化できることを明らかにした。また、初期フッサールの超越論的観念論を、世界全体が意識に存在論的に依存していると主張する形而上学的立場として解釈する方針を検討した。それを通じて、心身問題における汎心論の一形態としてフッサール的観念論を解釈・擁護する既存の議論をさらに洗練させる見通しが得られた。これらの成果は、「世界」概念の分析と解明に基づく一般的な形而上学的枠組みの構築に寄与するものである。
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