研究課題/領域番号 |
16K16686
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐藤 岳詩 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (60734019)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メタ倫理学 / R.M.ヘア / I.マードック / C.ダイアモンド |
研究実績の概要 |
本研究は、現代メタ倫理学を、その伝統に根ざしつつ、合理主義と反合理主義の論争の外部から俯瞰的に検討するという目的意識のもとに、これまでその重要性に比して十分な注意が払われてこなかったマードックらの理論がもつ可能性と意義を再評価を行うことで、より包括的なメタ倫理学理論を構築することを目的としてきた。 本年度は研究計画の二年目にあたり、前年度の成果を踏まえ、より発展的な研究を行うことを目的とした。具体的には、前年度提出したI.マードックについての研究論文「二つの倫理学 ── 選ぶことと視えること」を基礎として、彼女の思想に強く影響を受けた論者たちおよび新ウィトゲンシュタイン派と呼ばれる論者たちの議論を、反合理主義の思想として整理し、中でもその代表的論者の一人であるC.ダイアモンドの議論を取りあげることで、その成果を研究論文「C.ダイアモンドの分析的倫理学批判――分析対象としての倫理をめぐって」において、発表した。これによって、マードックの思想がダイアモンドの議論を経ることによって、より洗練され、明確なものとなったことを示すと同時に、合理主義的なアプローチとの関係に於いて、なお再考の余地を有することを明らかにした。 また並行して、学術図書として『メタ倫理学入門-道徳のそもそもを考える』を上梓することで、これまでの100年にわたるメタ倫理学の成果をまとめ、その意義を明確にした。これによって、本来の目的である合理主義と反合理主義的なアプローチの差異を含め、メタ倫理学において何が問題となっているのかを示し、特にその流れの中にマードックも位置づけるなかで、合理主義と反合理主義、客観主義と主観主義という単純な二項対立の解体を提起した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の課題は具体的には、マードックの思想に影響を受けた論者の理論の検討を中心として、現在の停滞状況を超えてこれからのメタ倫理学がどのようなものでありえるかを検討していくことであった。 まだ十分に調査が済んでいない議論もあるが、おおむね、マードックの議論がどのように受容されたかについては、明らかになったと言える。また、そこから、マードックらの反合理主義の議論と、ヘアらの合理主義の議論の両方を真剣に引き受けるメタ倫理学がどのようなものであり得るかについての、構想を立ち上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては、メタ倫理学と規範倫理学を適切に関係づけることを試みる。ただし、これまでの研究を踏まえると、十分にこの点を展開することには困難が伴うと予想されるため、単純に両者を結びつけようとするよりも、むしろ倫理学という営み自体の内実を問い直すことから始め、その中に両者がどのように位置づけられるかを検討するという仕方で研究を進める。その上で、両者を踏まえた応用倫理の可能性を探究する。
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