本年度は前年度までの研究を踏まえて、二つの目的を立てた。第一に、道徳性そのものとは何かについてのメタ倫理学的考察、第二に、メタ倫理学を踏まえての規範倫理学、応用倫理学的考察である。 第一の目的については、20世紀中盤に交わされたR.M.ヘアとP.フットの論争を手掛かりに、これまでのI.マードック研究の成果を踏まえて、重要性、人間性、見方という三つの道徳性理解を提示し、これらについて"Locating the Spheres of Morality"、「道徳の領域を見定める - R.M.ヘアとP.フットの論争を手掛かりに」、「P.ウィンチの普遍化可能性批判、再考」といったタイトルで研究発表を行った。これらを通じて、道徳性概念そのものについての一定の理解を提示することができた。 また、第二の目的については、「反出生主義のメタ倫理学的検討」、"”Good” on Benatar’s Anti-natalism"、「動物倫理と肉食」といったタイトルで研究発表を行い、反出生主義や動物倫理といった応用倫理学的諸問題について、メタ倫理学的な観点からアプローチを行い、それらについての批判的検討を行った。前者については、その主たる提唱者であるD.ベネターの理論では「善(good)」概念についてのメタ倫理学的基礎付けが十分ではないという結論を得た。後者については、近年の動物の権利論の含意を探ることで、功利主義的な考えに尽きない動物倫理の可能性が得られるという主張を行った。
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