本年度は、まず、前年度に引き続き、「対称性推論」(「AならばB」から「BならばA」を導くような推論)を題材とした動物行動学や神経生理学における実験的・理論的研究に関する文献調査を行った。人間においては幼児期から対称性推論に基づく選択バイアスが顕著に働くのに対して、他の多くの動物種では対称性バイアスを示す行動的な証拠は得られていない。これは報告者が並行して行っている実験研究で用いているマカクザル(ニホンザル)でも同様である。対称性推論は幼児期における語彙の爆発や柔軟な表象の操作に関係しているとしばしば主張される。この点で、対称性推論を可能にするメカニズムを解明することは、推論の自然化にとって重要な論点となると考えられる。 報告者は、これらの文献調査、およびカテゴリー機能に関する文献調査に基づき、「対称性推論で対となる刺激群がカテゴリーを形成することが対称性推論の成立にとって不可欠である」という仮説を立て、従来の研究で十分に行われていなかった「カテゴリー学習を経ての対称性推論のテスト」というパラダイムで、実際にマカクザルを用いた行動テストを行った。具体的には、複数の刺激ペアを用い、「AならばB」という順行性の対連合をマカクザルに学習させた上で、「BならばA」という対称性の対連合を刺激ペアの一つに関してテストし、さらにその刺激ペアの対称性対連合を学習させた。6つの刺激ペアに関してこうしたテストと学習を逐次的に行ったが、対称性バイアスを示す顕著な証拠は得られなかった。これらのテストで用いたサルは引き続きカテゴリー形成およびカテゴリー推論の神経基盤を解明するための実験で使用している。
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