研究課題/領域番号 |
16K16688
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
伊吹 友秀 東京理科大学, 理工学部教養, 講師 (70713014)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生命倫理学 / 研究倫理 / ミトコンドリア置換 / ゲノム編集 / 徳倫理学 / 生殖補助医療 / 3人の遺伝的親 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代の生殖補助医療技術の利用に関連する倫理的な諸問題に対して、徳倫理学れきな視点から分析を加え、わが国におけるこれらの技術の利用や規制の在り方について検討し、加えて生命倫理学における徳倫理学的アプローチの体系化を試みることを目的としている。この全体の研究計画の中で、平成28年度は「個別の生殖補助医療技術に対する徳倫理学的な観点からの検討」を行った。とりわけ、近年、国内外で議論が盛んな2つの生殖補助医療技術(①ゲノム編集技術、②ミトコンドリア病患者の卵子や受精卵に対するミトコンドリア置換技術)の倫理的な問題について取り組んだ。 本研究では、若手の生命倫理学領域の研究者や医科学技術者のコミュニティーとも協調しながら、これらの問題に取り組んでいる。実際の成果としては、①ゲノム編集に関しては、他の若手研究者1名と協力し、ゲノム編集技術をわが国に導入する場合の倫理問題を、1)基礎研究段階、2)臨床研究段階、3)それ以上の段階の3つに分けて検討した。本研究結果については、現在投稿中であり、平成29年度には成果として公表されることになっている。 ②ミトコンドリア置換の倫理に関しては、ミトコンドリア病研究の第一人者でもある国立精神・神経医療研究センターのメディカル・ゲノムセンターの後藤雄一センター長から医学的観点についての助言などもいただきながら、ミトコンドリア置換に対する倫理問題について網羅的に論点を収集し、分析を加えた。とりわけ、ミトコンドリア置換技術に関しては、「3人の遺伝的親」の問題がしばしば強調されるが、そのことだけでこの技術の利用が一切否定されるべきというわけではないことを示した。本研究の成果は、すでに学術誌『生命倫理』上で公表されたが、わが国で初めてのミトコンドリア置換のリン的問題を体系的に論じた論文であったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画によれば、平成28年度の研究計画は、「現在社会的に問題となっているような生殖補助医療についての徳倫理学的な検討についての研究から着手する。具体的には、現在、国内外において議論となっている以下の二つの問題について、現在の国内外の議論を踏まえたうえで、徳倫理学の観点も含めた分析を加える:1)ゲノム編集技術の倫理的問題、2)ミトコンドリア病患者(保因者)の卵子に対するミトコンドリア置換の倫理的問題」となっている。1)の研究については、現在、その成果の一部をまとめた論文を生命倫理学領域の研究者との共著で投稿中であり、すでに掲載が決定している。2)については、その成果について、学術誌『生命倫理』に投稿し、すでに掲載されている。 このため、当初の研究計画に記載した2つの研究について、すでに論文投稿、および、その受理が決定しており、成果の公表という点において平成28年度の研究計画は順調に進捗したと言える。 また、本研究では遂行上の工夫として、生命倫理学領域の若手研究者との共同研究、および、医科学研究者との協力をすることをあげている。この点についてもすでに若手生命倫理研究者との研究会を複数回開催して、研究の内容について意見の交換を行っている。また、医科学研究者との意見の交換についても、特にミトコンドリア置換の倫理に関してはすでに当該分野の専門家からの助言を仰ぎながら研究を遂行している。そのため、研究体制の構築という点からも、平成28年度の研究は順調に遂行できたものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度までの研究の計画は、当初の研究計画に沿っておおむね順調に進行したと言える。ただし、ゲノム編集の倫理に関しては、現状では論点の整理にとどまっているため、さらなる検討の余地があるものと考えている。そのため、平成29年度は、ゲノム編集の倫理問題に対するさらなる検討を当初計画に追加して実施することとする。 当初の研究計画では、平成29年度は「生殖補助医療の倫理における徳倫理学的議論の体系化」の研究を実施することとしている。そのため、平成29年度の研究計画は以下の2つの研究を遂行することとする。1)ゲノム編集の倫理に対する徳倫理学的アプローチによる分析と、2)生殖補助医療の倫理における徳倫理学的議論の体系化の研究を行う。1)については、前年度から引き続き、先行する研究の分析を中心にこの問題について徳倫理学的アプローチからの分析を試みる。 2)については、平成29年度のみで完成させるというよりも、研究最終年度(平成31年予定)までで完成させることを目指すため、平成29年度はその研究の開始の段階にあたることになる。具体的には、生殖補助医療の倫理における徳倫理学的議論の体系化を実現するために、ここまでの本研究から抽出された諸論点と欧米を中心とした生命倫理学上の諸研究の論点の整理を行う。特に平成29年度はこのような研究を円滑に進行するために、徳倫理学の研究の第一人者でもある豪州もナッシュ大学生命倫理研究センターのJ.オークリー准教授に助言を仰ぎながら研究を遂行する。そのため、当該年度中にオークリー准教授のもとを訪ねて在外研究を実施する予定となっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、本研究費のほかに分担研究者として基盤Aの研究に参画し、そちらからの補助もいただいていた。そのため、当該研究費との支出の兼ね合いで、当初本研究費での購入を検討していたパソコンおよび周辺機器(20万円程度)を基盤Aの方から支出したため、その分の費用が抑えられた。また、平成28年度中にも予定していた海外での研究の打ち合わせについて、先方との調整により、平成29年度にずれこむこととなったため、その文の旅費を翌年に繰り越して、より長期の滞在をして、より綿密な研究の打ち合わせをすることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の研究計画上、豪州モナッシュ大学(@メルボルン)のJ.オークリー准教授との共同研究を計画している。そのため、渡豪して、現地に数週間滞在して研究の相談や共同研究についての打ち合わせを行う予定である。そのため、現地での滞在費と渡航費を含めて50万円程度の支出を計画しており、前年度の繰越金額をこの費用に加えることを計画している。平成28年度は、日程の調整の関係で渡豪することができなかったが、前年度の繰り越しを充当することで、当初の予定よりも長期に滞在し、より綿密に研究の相談、および、共同研究の準備が可能になるものと考えている。
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