研究課題/領域番号 |
16K16692
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
松元 雅和 関西大学, 政策創造学部, 准教授 (00528929)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 戦争倫理学 / 非対称戦争 / 戦争のジレンマ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、今世紀の国際社会で比重を増しつつある非対称戦争に注目し、そこで生じている戦争規則違反をめぐり、その構造的要因を「戦争のジレンマ」状況にあるものとして位置づけたうえで、非対称戦争において要請される戦争倫理を解明することである。28年度は、本研究における予備的調査として、従来の国家間戦争と比較しながら、非対称戦争における戦争規則違反の実態を把握し、それが戦争目的と戦争手段の相反という構造的要因に由来することを解明した。具体的には、各種の国際機関・報道機関が報告する調査資料に基づき、非戦闘員保護(保護)原理の遵守/不遵守状況を確認し、とくに今世紀以降に生じている非対称戦争とその紛争被害を把握した。また、先行研究のレビューに基づき、非対称戦争における戦争規則違反の要因に関して、どこまで意識的/構造的に特定されているかを文献的に精査した。その成果の一端として、1)「テロと戦う論理と倫理」『論究ジュリスト』17号(2017年4月予定)では、テロリズムおよびテロとの戦いの特質とその是非に関して、権利論および功利主義の観点から倫理的に分析した。2)「カタストロフィとしての戦争―正戦論における比例性原理の検討」『立命館言語文化研究』28巻1号(2016年9月)、151-169頁では、戦争の諸々の正当原因を、正当防衛と刑罰の観点から列挙・整理しつつ、マクロ比例性原理における戦争肯定と戦争否定の閾値を考察した。3)「平和主義の論理と倫理―アポリア構造とその打開?」平和主義研究会(2017年3月11日)では、行為と事態、目的と手段、戦略と道徳の三つのジレンマ構造から平和主義の戦争倫理学的特質を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、今世紀の非対称戦争において要請される戦争倫理の解明を段階的に実施する。28年度は、非対称戦争の構造的特殊性を「戦争のジレンマ」として特定する研究に従事した。その結果、第一に、テロとの戦いにおいて、権利論は自由の制限のような「次悪」を絶対的に許容しない点において、逆に功利主義は「次悪」の問題を過小に評価している点において、不十分であることを明らかにした。第二に、戦争の正否の判断にあたっては、正戦論や平和主義のいずれにおいても、帰結主義が必要不可欠であり、その具体的な輪郭を描くことが重要であることを明らかにした。第三に、目的と手段のジレンマ構造においては、正当原因や比例性のような正戦論的前提が平和主義へと論理的に接合する可能性を指摘した。これらの研究成果を通じて、非対称戦争においてなぜ戦争規則違反が生じるかを、戦争目的と戦争手段の相反という構造的要因に由来するものとして特定する本研究の当初課題を達成するとともに、次年度以降の課題達成に向けた有益な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
29年度以降の課題は、戦争規則違反のありうる免責理由の妥当性を検証しつつ、非対称戦争における戦争倫理を構築することに着手することである。具体的には、第一に、「戦争のジレンマ」状況における戦争倫理の一例として、最高度緊急事態において非戦闘員保護(区別)原理の違反が免責される余地を検証する。第二に、戦争規則違反の免責理由として用いられる二重結果(double effect)説の妥当性を検証する。なお本研究成果の一部は、15th Annual International Conference on International Studies (Athens, Greece)において国際会議発表を予定している。
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