研究課題/領域番号 |
16K16693
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青野 道彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (10773567)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サマンタパーサーディカー / ヴィナヤピタカ / 註釈文献 / TEI P5 / XML / 上座部仏教 |
研究実績の概要 |
本研究は上座部仏教の僧侶たちの生活規範を扱う聖典『ヴィナヤピタカ』の註釈書である『サマンタパーサーディカー』の研究基盤を形成することを目標としている。具体的には、『サマンタパーサーディカー』の参照を簡便化するためのツールを汎用性と応用可能性の高いXML(Extensible Markup Language)を用いて作成することを目的にしている。 この目的を実現するために『サマンタパーサーディカー』のマークアップ作業を進めてきたが、その際に基準としたのは人文学資料をXMLによりマークアップする際のデファクトスタンダードであるTEI (Text Encoding Initiative) P5ガイドラインである。そこに示されるタグ・セットは本研究においても概ね有効であったが、欧米言語で書かれたテクストを前提にしているため、そのまま適用できない事態にしばしば直面した。そこで、ガイドラインの不備を補うために、そのタグ・セットに関する諸問題を整理し、対応策について検討した。 特に問題となったのは註釈箇所のマークアップ方法であった。TEI P5ガイドラインによれば、それをマークアップするタグは<gloss>であるが、『サマンタパーサーディカー』では用いることができない場合があった。具体的には、註釈箇所に引用文や韻文が含まれるときであり、この様なことは仏教やインド哲学の註釈文献では一般的なことであるが、それがガイドラインでは認められていないのである。 この様な事例を収集し、問題解決策について検討を行ったが、その成果ついては平成29年度に論文等により公表する予定である。その手始めとして5月13日に情報処理学会「人文科学とコンピュータ研究会」の第114回研究発表会で「仏教文献における注釈構造の可視化に関する予備的研究―パーリ語仏教文献を事例として」というタイトルで発表する。また、ガイドライン策定機関であるTEI Consortiumに問題提起を行うことも検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画書で記した様に、本研究は(1)『サマンタパーサーディカー』の諸版本を対照表示させるツール、(2)『サマンタパーサーディカー』の註釈対象語句索引を、XMLを用いて作成することを目指している。 このうち、前者についてはSimon Hewavitarne Bequest版のデジタル画像(バイナリファイル)を作成した。Pali Text Society版については、最近、デジタルテクスト(テキストファイル)が公表されたので、デジタル画像を作成する必要がなくなった。これにより、当初の計画の通り、タイ王室版とビルマ第六結集版とを合わせて主要4版本のデジタルデータが揃ったことになる。 後者については、『サマンタパーサーディカー』の註釈対象語句をTEI P5ガイドラインのタグ・セットに準拠してマークアップする作業を進めてきた。ただし、先述の通り、TEI P5ガイドラインを『サマンタパーサーディカー』にそのままに適用できない事態に直面したため、その作業は当初計画よりも遅れている。現在は註釈対象語句を網羅的にマークアップする作業を進めている最中であり、註釈箇所の範囲をマークアップする作業も並行して行っている。
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今後の研究の推進方策 |
『サマンタパーサーディカー』の諸版本を対照させるためのツールについては、主要な四版本のデジタルデータが揃ったので、それを搭載するためのツールを作成する。具体的には、Mirador Viewerの活用を検討している。 『サマンタパーサーディカー』の註釈対象語句索引については、引き続き註釈対象語句のマークアップ作業を進めていき、できる限り早い段階でその索引を完成させたい。また、同時に註釈箇所についてもマークアップ作業を進めて行く。なお、このマークアップの成果を利活用するためには、このマークアップに対応したViewerが必要となる。それについては、Javascriptを用いてWebブラウザ上で動作するものを永崎研宣氏(人文情報学研究所主席研究員)の技術的支援のもと開発中であり、年度内には完成させる。 研究計画の変更が一つある。研究計画書では『サマンタパーサーディカー』を註釈対象である『ヴィナヤピタカ』とリンクさせることを予定していたが、両テクストの対応付けを自動化することは技術的に難しく、それを実現するには当初の予想以上の作業量が必要であることが明らかになった。現状では、その作業者の確保が困難であるとともに、その作業対価の準備資金も不足している。そこで、代わりに註釈対象語句索引の充実を図ることにする。具体的には、『サマンタパーサーディカー』の註釈対象語句のマークアップに見出し語を付加していき、その見出し語によっても検索できるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
TEI P5ガイドラインに不備があったため、マークアップ方法について模索しながらの作業となったため、協力作業者にマークアップ作業を依頼せず、一人で作業を進めた。その結果、平成28年度は当初の計画の通りに謝金支出を行うことができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
TEI P5ガイドラインの不備に対応する方法については前年度に検討を終えたので、今年度は協力作業者にマークアップ作業を分担してもらう予定である。前年度の未使用額については、協力作業者への謝金支払に充当する予定である。
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