研究課題
本研究の目的は、ツォンカパ・ロサンタクパ(1357-1419)の『縁起讃』および同作品の影響下に書かれた後代の作品の内容および文体を精査することにより、チベットにおける中観思想と美文詩・宗教歌の融合が成立した過程と、それらの作品群に見られるチベット人の宗派意識の実態を明らかにすることである。当該年度の最も重要な成果は、ツォンカパの『縁起讃』およびその註釈・関連文献に対する数年来の研究成果を集大成した単著『ツォンカパの思想と文学―縁起讃を読む―』(平楽寺書店、2016年)である。ジャムヤンシェーパ(1648-1721)など後代のゲルク派学僧の著作を活用することにより、ツォンカパの縁起思想を立体的に描き出すと共に、従来あまり知られていなかった「詩人ツォンカパ」に焦点を当てた研究である。また、プーケーパ(1618-85)の『詩鏡』註釈の冒頭箇所の読解に基づき、古典期のチベットにおいて美文詩を書く目的とは仏法僧の三宝を美しい言葉で讃え、自身の功徳を積むことであったこと、それゆえ、仏教思想と関連する詩が好んで受け入れられる土壌が形成されたことを明らかにし、その成果を第14回国際チベット学会(ベルゲン大学)にて発表した。さらに、当該年度は、ツォンカパの人間観および否定対象論について研究を進め、意識によって措定されたものに過ぎない〈人〉があたかも幻のようにこの世界に存在するのであるという彼の人間観、また、真実の探究において否定すべき対象は、現に我々の意識に顕現している内外の諸事物と不可分のものであるという彼独自の思想を明らかにし、学術大会において口頭発表を行なった。さらに、チャンキャ・ロルペードルジェ(1717-86)の『知見の歌』についても研究を実施し、チベット仏教史上におけるこの作品の重要性を指摘する論文を『比較論理学研究』14号に発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
ツォンカパ『縁起讃』研究の成果を集大成し、単行本の形で出版したことは当初の計画にはなく、この成果は研究が計画以上に進展していることを示すものである。また、チベット中観思想と文学の関係を明らかにする上で重要な文献、特にチャンキャ・ロルペードルジェの『知見の歌』やプーケーパの『詩鏡』註釈の読解を進めた他、ツォンカパの中観思想の根幹をなす否定対象論や人間観についての研究を進め、その成果を国内外の学術大会にて発表し、幾つかの成果については学術誌に論文を寄稿した。未出版の成果については、平成29年度内に論文を学術誌等に投稿する予定である。
チャンキャ・ロルペードルジェの『知見の歌』およびプーケーパの『詩鏡』註釈の読解をさらに進め、チベットにおける中観思想と文学の融合について考察を行なう。これに当たり、青海師範大学のギャイ・ジャブ教授と連携し、共同研究会を実施する
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
比較論理学研究
巻: 14 ページ: 57-68
哲学
巻: 68 ページ: 57-70
Rje tsong kha pa zhib 'jug, Rje tsong kha pa'i rgyal spyi'i rig gzhung bgro gleng tshogs 'du skabs dang po'i dpyad rtsom phyogs bsgrigs
巻: - ページ: 208-215