研究課題/領域番号 |
16K16700
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
孫 知慧 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (90736604)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 元暁 / 近代仏教 / 東アジア / 文化交渉 |
研究実績の概要 |
初年度の平成28年度は、資料の収集、先行研究の検討を重点的に行った。(1)近代アジア仏教徒の元暁(617-686)認識を解明するための基礎作業として、韓国、日本、中国の雑誌、論文、記事などを調査した。近代韓国仏教界の雑誌『仏教』『唯心』『朝鮮仏教叢報』、また在日留学生の見解が反映されている東京留学生会の機関誌『金剛杵』や朝鮮仏教団の『朝鮮仏教』などを検討した。中国側の資料としては、北京仏教留学生会など20世紀初めにおいて中国で留学していた韓国仏教徒に関わる資料の調査に取り組んだ。これらの資料を集め、国家別、時期別、主題別、人物別に目録を作成した。(2)文献資料だけではなく、近代以来に元暁を主題とした映像、公演芸術も調べ新たな情報を獲得した。1940年代に映画と演劇「元暁大師」の製作が推進されたこと、李光洙の小説『元暁大師』(1942年)を原作として作られた映画、ドラマ、演劇を確認した。これらの資料を分析し、植民地期、軍事政権期、民主化運動期をへる中で、韓国社会の政治、宗教的状況を反映して、元暁がどのように表象化されたか、どのように大衆に流布、拡散されたか、その歴史的意味と問題点を考察した。その成果は、まもなく学術論文として投稿するところである。(3)資料の収集とともに元暁思想そのものに対する研究も並行して行った。仏教伝統の「無諍」ともいえる立場と区別される元暁の論理展開の特徴を探る試みとして、元暁の論疏にみる「門・二門」の設定に注目した。元暁は、相反する主張を両門に配属させて、各主張の成立背景を分析し、対論者間の相互疎通を導こうとしており、ただ「非諍」「沈黙」のみ強調される場合見逃されがちである「相手の見解に対する理解と尊重」に力点を置いたことを明らかにした。これについて論文を執筆し学術誌に掲載することとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画は、基礎資料の調査と収集が目的であり、予定どおり順調に作業を進めた。調査を通じて散在する近代における元暁関連の資料を集め目録化作業を行った。参考になりうる西洋の研究資料も調査、確報したが、ただし中国側の資料の収集は予想よりもやや遅れている。当初計画した文献資料の収集に加え、公演芸術、映像も調査し、これらの資料を用いて近現代における元暁大衆化の様相とその意味を分析した。現在、その成果を学術論文として投稿する準備を行っている。さらに次年度の研究のために、元暁の思想に対する研究も行い、元暁の『二障義』『涅槃宗要』『起信論疏』から、二門構造を設け、空と有、一乗と三乗のような異見の調停を試みた例を検討した。従来、元暁は、言語と論理を超えた統合志向者として漠然と語られる傾向があったが、この研究を通じて、元暁は、分類、分析、調停などの過程を重視しており、とりわけ「門」の設定は、彼の思想展開の方法論的独創性を示す好例であることを明らかにした。これらの点から現在まで全般的に順調に研究を進めていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)前年度に引き続き資料の確報を行う。とりわけ、若干遅れている中国側の元暁理解の様相が読み取れる資料の確報に努めたい。(2)当初の計画どおりに平成29年度は、近代東アジアにおける元暁の「著述と思想」に関する資料を中心に分析を行う予定である。近現代における元暁著述の把握や刊行の経緯を詳しく検討したい。とりわけ、近代日韓仏教徒の元暁著書の再発見、『華厳経疏』『二障義』『判比量論』などの確認と解釈、著書目録の作成について考察する。その分析により、近代における元暁論疏の研究が、現在元暁思想理解に及ぼした影響を把握したい。さらに、近代以来「通仏教」「和諍」など概念が、元暁思想を象徴する用語として固着、拡散されるようになった経緯についてもより詳しく究明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していた海外資料調査の一部を、他研究の発表準備など個人的事情により実施することができなかった。それに加え、元暁全書、近代雑誌影印本、海外書籍などの複写や購入を予定していたが、手続きに時間がかかるために次年度に繰り越した。また、出張と図書購入に関する領収書を提出するのが遅れたために予定金額との誤差が生じており次年度の使用額になってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度に実行できなかった予定を次年度に実施する。海外に資料調査、研究発表に出かける予定であり、とりわけ平成29年度の秋期には、韓国の元暁関連遺跡地と文化館、大学図書館などで調査を行う。また、平成28年度中に入手できなかった書籍の購入、国内外の図書館からの文献複写、資料の翻訳に研究費を使用し、収集資料の解読と管理のために、プリンター、スキャナー、パソコンモニターを購入する予定である。
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