平成28年度は、当初の計画通り、1848年以降の時期のキェルケゴールの日記の研究を行った。日記NB4からNB15までを精読し、この時期の彼の内面的な生のあり方、とくに信仰のあり方について考察した。あわせて、ガルフとキアムセの研究書などを手がかりにして、この時期の彼の外面的な生活の様子を把握した。 これらの研究の結果次のことが明らかとなった。キェルケゴールは、1848年から49年にかけて、1848年に執筆した『死に至る病』およびそれと関連する諸著作をひとまとめにして『完結の全集』として刊行し、それに伴って著作活動から手を引こうと考えていた。そして、キェルケゴールは、それをめぐる思考の末に、著作活動は自分にとって神関係の重要な一部であることを再認識し、『完結の全集』のアイデアを放棄するとともに著作活動を継続することを決意し、1849年7月下旬に『死に至る病』を出版するに至った。 この研究の成果は、平成29年度のキェルケゴール協会学術大会において口頭で発表し、その後、同協会編『新キェルケゴール研究』第16号への投稿論文という形で公表する予定である。 平成28年度は、本研究の方法論に関する論文「日記における信仰をめぐる思索のフィクション性について」を『新キェルケゴール研究』第14号に掲載したり、キェルケゴールの日記の一般向けの編訳『キェルケゴールの日記――哲学と信仰のあいだ』を講談社より出版するなど、本研究に関連する研究成果を公表した。
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