宗教政策の面から見た明治期日本の暦の歴史

2016 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 16K16706
• 研究機関: 東洋大学
• 研究代表者: 下村 育世 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (00723173)
• 研究期間 (年度): 2016-04-01 – 2019-03-31
• キーワード: 暦 / 改暦以降 / 日本近代宗教史 / 伊勢神宮 / 東京天文台 / 明治国家

研究実績の概要

平成28年度は、明治国家の暦にかかわる政策の動向を把握するために、暦を管轄する省庁（主に内務省、文部省）の公文書（主に国立公文書館所蔵の『太政類典』『公文録』『公文類聚』『公文雑纂』など）の読み込みを行い、暦関係の法令を網羅的に調査するとともに、法令化されなかった請願や建白書、伺などにも目を配るという基礎的研究を行うことはもちろんのこと、国立天文台図書室所蔵の公文書や、戦前に発行された神道関係者を主たる読者とした雑誌の誌面調査も行い、国の公文書には記載されにくい暦の編纂や頒布の実務レベルの在り方の把握にも努めた。これらの神道関係雑誌は所蔵館が少ないため、皇学館大学附属図書館（三重県）所蔵の『瑞垣』や『皇国』、『皇国時報』などの雑誌調査からとりかかり、暦に関わる記事の閲覧・複写を行いながら、神道関係者が担った暦の実務や儀礼および意識の把握に努めている。併せて、暦にかかわる基礎的文献の購入と、国会図書館等における調査で収集した文献および論文により、基本情報の把握と収集を行った。

こうした調査と平行して、研究成果の公表の準備を進めた。次年度以降に公表予定の学術論文として、国立天文台図書室所蔵にかかる行政文書を用いて、明治中期の旧暦と新暦の使用状況についての論文の執筆を行った。さらに神宮司庁の便覧などを典拠として、昭和戦前期の地域別（都道府県別）の暦の流通状況について、それらの基礎的データの公表も兼ねて、全国の暦の頒布の偏りなどを明らかにする論文の執筆も進めている。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成28年度は、当初の研究計画において最重要のものとして挙げていた、近代以降の暦の歴史を法令に準拠しながら政策動向を把握することについての、おおよその基礎的史料収集はなった。この作業を進めているうちに、公文書には記録されることが少ない、暦にかかわる実務や儀礼、実務担当者の意識の把握の必要性をも感じ、国立天文台図書室所蔵の公文書の調査を続けるとともに、戦前に発行された神道雑誌の調査も併せて行い始めた。両者ともに膨大な量の資料群であるが、編暦の実務については前者、頒暦の実務については後者を基に基本情報の把握作業を進めている。
当初は今年度に収集した調査の中間報告を学会にて発表する予定ではあったが、論文の執筆作業を優先させた。次年度以降に公開予定である。

今後の研究の推進方策

次年度は、平成28年度に引き続いて近代以降の暦の歴史を、法令に準拠しながら明らかにする史料調査を続ける。これらは、近代の暦に関する基礎研究となるものであるから、今年度も引き続き適宜必要な機関に調査に赴き、史料収集に努めたい。またこれまでの調査では明治以降の暦の動向にかかわる史料収集が中心であったが、次年度からは暦の歴史と明治国家の宗教政策との関連を考察すべく、明治以降の国家神道体制の形成過程に目を配りながら、近代の暦の歴史と神道との関連性についての情報収集に努めていく。

次年度使用額が生じた理由

本研究は、公文書を主たる史料として明治期以降終戦時までの暦の研究をおこなっているため、公文書の閲覧および撮影依頼・用紙出力は必須である。今年度はデジタルアーカイブ上での公文書の調査を中心に行ったため、公文書の複写依頼をしていないことが次年度使用額を生じた理由として大きい。

次年度使用額の使用計画

次年度は、公文書の複写依頼を行うとともに、地方の公文書館や図書館への調査の遂行のために必要となる旅費として使用する計画である。