研究課題/領域番号 |
16K16709
|
研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
藤岡 俊博 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (90704867)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 贈与 / 利益 / 没利益 / レヴィナス / デリダ / モース |
研究実績の概要 |
研究初年度にあたる本年度は、研究課題全体の基盤整備として「利益」概念を思想史的観点から整理したうえで、それを踏まえた「没利益」の概念の析出のための調査を行った。特にフランスのモラリストであるラ・ロシュフコーの言説を分析し、「没利益」を「利益」の否定ではなく単なる偽装とみなすことで「没利益」を一般的な「利益」概念のなかに組み込もうとする見解の理論的筋道と歴史的展開を調査した。また、現代フランス哲学における「没利益」概念の研究として、ジャック・デリダが『時間を与える』で展開しているマルセル・モースの『贈与論』読解の再検討を行うとともに、エマニュエル・レヴィナスにおける「贈与」の主題をモースの議論と接続可能かどうかを検討した。その過程で、一見すると『贈与論』の辛辣な批判と解釈されうるデリダの議論が、むしろ時間の贈与という積極的な贈与の可能性を『贈与論』そのものに即して提示していることを示したうえで、「エコノミー」と区別される贈与の構造および贈与のアポリアが同様に見られるレヴィナスの思想においても、贈与が「隔時性」という時間として考えられていることを明らかにした。本研究を通じて、モースの人類学的議論と、デリダおよびレヴィナスの哲学的議論を接続するとともに、デリダの議論に対しておもに社会学や人類学から提起されてきた反論に哲学の側から応答することで、モースの『贈与論』をより広い思想史的文脈のもとで捉え直す視野が得られたと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現代フランス哲学における「没利益」概念の研究、とりわけモースの『贈与論』との思想史的関連について、順調に研究が進展し、論文として成果を公表することができている。
|
今後の研究の推進方策 |
「利益」および「没利益」概念の思想史的研究については、大規模な一次資料の調査および読解が必要になるため、調査結果を暫定的な形でまとめるなど、効率的に成果を公表できるように努める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、物品費に計上していた書籍の購入が当初の計画よりも少なかったこと、国内の研究集会等に使用する国内旅費が生じなかったこと、また、「その他」として計上していた印刷費等の使用がなかったことが挙げられる。
|
次年度使用額の使用計画 |
購入計画を精査し、初年度に購入しなかった書籍を追加で購入するとともに、研究発表のための旅費として活用する予定である。
|