本研究の目的は、従来ほとんど注目されずにいた摂関院政期の漢学思想を解明し、思想史研究に正しく位置付けるとともに、分析の方法論を編み出すことである。 本年度は、研究成果を学会発表2回として公表した。また、すでに学会発表1回が確定している。 まず学会発表「慈円『愚管抄』における権者論の由来と機能」では、慈円(久寿二年[1155]~嘉禄元年[1225])の『愚管抄』(承久二年[1220]成立)の権者論について検討した。従来の『愚管抄』研究では、権者論が解明されず、また仏教の影響が過大評価されてきたという問題を指摘できる。そこで本発表では、慈円『愚管抄』の権者論について考察し、これが道理史観を破綻させないように機能していたことの論証を試みた。なお、本発表によって得られた知見は原稿2本として雑誌に投稿済みである。 次に学会発表「江戸前期における日本儒学史叙述の形成過程」では、近世新儒学中心史観(日本儒学で研究価値があるのは新儒学が真に行われた江戸時代だとし、それ以前は旧儒学の時代であり思想としての意義がないと切り捨てる史観)の濫觴である江戸前期の日本儒学史叙述について検討した。これは、今日の儒学史叙述でも奈良平安時代は大学寮の制度などが注目され、思想研究が薄弱なままであることの原因を探るためのものであった。当初の研究計画以上に多くの知見が得られたため、初年度は論文として投稿しなかった。第2年度前半に学会発表「江戸前期における道統論と儒家神道」を行い、その学会発表2回の内容を合わせて論文として投稿する予定である。 その他、早稲田大学図書館や財団法人東洋文庫、国立国会図書館などで史料調査を行い、その複写収集に努めた。
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