最終年度である本年度は、研究成果を査読付きの論文1本と研究ノート1本として公表した。 論文「奈良平安時代における神国言説――用例と時系列に着目して――」は前年度に投稿し、査読を通過して刊行されたものである。日本は神国だ、という古来我が国に存在していた言説は、これまで鎌倉時代以降の展開が大いに注目されてきた。報告者はそれより前の奈良平安時代の神国言説について調査し、我が朝は神国だという自国意識は和漢の祭祀制度の相違を意識したものだったと考えられることなどを指摘した。日本独自の思想展開とされてきた神国言説の考察にも、漢学の視角は有効であろう。 研究ノート「平安時代における礼楽思想と天皇奏楽――盛唐以前と比較して――」(『東北アジア研究』24、2020年3月)では、従来平安時代の政治史研究などで安易に用いられてきた「礼楽思想」という分析概念に問題があることを指摘した。先行研究は儒学における楽器演奏の意義を誤解しており、平安時代の天皇奏楽はむしろ礼楽思想からの逸脱として理解すべきである。本研究によって、平安時代の政治史研究などに反省を迫るとともに、平安時代の文化をより柔軟なものとして捉えられるという可能性を提示できた。 その他、所属機関や国立国会図書館などで資料調査を行い、研究に必要な書籍や論文を入手読解した。それらは読み取り可能なPDF化し、自分用のデータベースを構築した。また、最終年度としての仕上げ作業を行った。
|