研究課題/領域番号 |
16K16712
|
研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
藤原 佐和子 東北学院大学, 文学部, 講師 (20735295)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 思想史 / キリスト教 / ジェンダー / 環境倫理 / エキュメニズム |
研究実績の概要 |
2016年度は、ラテンアメリカの女性キリスト者たちによるエコフェミニスト神学運動における精神的支柱とされているイボネ・ゲバラについて中心的に研究した。その概要を以下に4点挙げる。第一に、エコフェミニスト神学の研究史が非西洋に視点をシフトさせた過程を振り返り、ラテンアメリカにおいてはゲバラの影響を受けたコンスピランドが身体的神学を方法論として、諸悪の根源として軽蔑されてきた女性たちの身体(bodies)を「聖なるテキスト」として捉え直そうとしている点を確認した。第二に、解放の神学から生まれた1970年代以降のラテンアメリカのフェミニスト神学の思想的変遷を概観し、1990年代以降のエコフェミニスト神学が自らのルーツである解放の神学への厳しい批判を特徴とする点を示した。第三に、「貧しい者」の概念からこぼれ落ちた「貧しい女性たち」とその身体の捉え直しにゲバラと主著Longing for Running Waterがどのようにかかわっているかを探るために、ゲバラのライフヒストリーを辿った。彼女が段階的にフェミニスト、エコフェミニストとしての批判的視点を身につけてきた点、Longing for Running Water の背景には1993年の女性の自己決定権についての発言をきっかけとしたバチカン教理省による沈黙の強制があった点について論及した。第四に、Longing for Running Waterのイエス論において、ドグマによる「過度なイエス中心性」を大胆に批判し、ナザレのイエスを「私たちの肉の肉」と言い表すゲバラのポストドグマティックな神学的立場について見た。ゲバラがドグマとイエスの生涯における解放的実践を額縁と絵画の関係に譬え、問題とすべきはイエスをめぐる正統で権威主義的なドグマではなく、あくまでも人間の具体的現実であり、日常生活の有り様であるとした点について論究した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大学における業務増加のため、研究課題について当初の予定よりも少ない時間内で取り組む必要があった。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度は、本研究が地域的事例として取り上げるAsian Women’s Resource Centre for Culture and Theology(1987年設立)の専門誌上で、過去30年間、とりわけ「地球サミット」開催以降にどのようなエコフェミニスト神学的考察が展開されてきたかを調査する。そこにおける欧米のエコフェミニスト神学からの影響と独自の展開について検討し、日本基督教学会において成果発表を行うことを計画している。先駆的事例の研究としては、イボネ・ゲバラのエコフェミニスト神学に関する文献研究に継続的に取り組み、1991年の主著Longing for Running Waterに続いて注目を集めた2002年のOut of the Depths(深い淵の底から)をもとに、日常生活と救いのかかわり(everyday salvations)などの思想的特徴について検討していく。サンティアゴのコンスピランド・コレクティヴが毎年2月に開催してきたエコフェミニスト神学のサマースクールは現在開催されていないため、健康上の都合との兼ね合いから、渡航の必要性について情報収集を続けながらあらためて検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)健康上の都合により経過観察の必要性、研究対象グループのイベント開催の中断、大学における業務の増加などを理由として、チリのサンディアゴにおける現地調査遂行を延期したため、次年度使用額が生じた。
(使用計画)情報収集を進め、現地調査の必要性を再検討しながら、アジアの事例研究に優先的に取り組む。
|