研究課題/領域番号 |
16K16715
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
桑原 俊介 上智大学, 文学部, 助教 (30735402)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バウムガルテン / 美学 / 美的真理 / 感性的真理 / aesthetica / ヴォルフ / 形而上学 / 論理学 |
研究実績の概要 |
29年度の実績は3種に分けられる。 1、バウムガルテンのaesthetica(美的/感性的)概念を、「上位認識能力(cognitio superior)」と「下位認識能力(inferior)」という対概念の歴史的系譜の下で考察した。この対概念は管見の限りヴォルフ以前には遡及されえず、例えばトマスの「上位理性」と「下位理性」の区別も「理性(ratio)」の区別であり、あるいはベーコンの区分も、感覚、知性(理性)、想像力の区分として、共にヴォルフの対概念の区別には相当しない。むしろ「明晰判明/明晰渾然」という認識の「確実性」の区分を、認識能力“それ自体”の区分として適用し、感覚や想像力等を含む「下位認識能力」という新しい外延を有する“類概念”を成立させた点に、ヴォルフの新しさが、さらにはバウムガルテンの美学を全く新しい学問として可能にしたひとつの重要な条件があることが判明した。 2、依頼論文の要請に従い、バウムガルテンのaesthetica概念に関わる「魂の根底」概念を「聖なるもの」との関係で論じた。それにより、教父以来の魂の根底概念の歴史的系譜に即して、バウムガルテンのaesthetica概念の独自性、およびそれ以降の美学的着想の継承性の一端が明らかになった。 3、バウムガルテンにおける真理の拡張の一側面を、「普遍の真理」(知性)から「個体の真理」(感性)への拡張として再考した。そしてそれが可能になった条件のひとつを、感性的に捉え返された形而上学(存在論)と論理学との関係に即して考察した。その結果、美的/感性的認識が、「外延量」に即して規定された点に、個体性に関する新しい真理概念の成立のためのひとつの条件を見出した。 1は現在論文を執筆中、2は論文印刷中、3は研究継続中である。なお、1、3は、採用時研究計画の目的の1(3)に、2はその(2)に相当する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記概要にある1、3の研究は、計画上は29年度前半に実施予定だったが、前半では完了せず、そのため29年度後半に予定していた「修辞学の一般化」に関しては研究が未着手であるため。この遅延は主として、研究の進展により明らかとなった新事実および新課題が続出したためである。1では、トマスからバウムガルテンへと至る概念の検証が極めて広範かつ複雑であり、それぞれの論者ごとに概念の含意が異なり、その異なりを丁寧に見極めることが要請された。かかる含意の検討は、1の研究において避けて通れぬ課題であり、むしろこの複雑さが、予期せぬ新事実の発見を促した。2は計画段階では予定されていなかった依頼論文であり、実施計画の一部変更を余儀なくされた。ただしこの研究は、30年度の予定を一部先取りする形で実施されたため、本研究を全体としてみた場合に、内容に変更はない。3の研究は着実に進展しているが、1、2のしわ寄せにより、一定の成果として論文を執筆し発表するには依然至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、上記概要の3の研究を継続する。特にヴォルフとバウムガルテンそれぞれの形而上学(存在論)にみられる個体の規定を比較検討し、後者の独自性を吟味する。また同時に、美学を、下位認識能力の「論理学」と見なすバウムガルテンの視点に則り、彼のもとでの存在論と論理学の関係を、知性ではなく、感性のレベルで類比的に捉え返すことを試みる。その際、従来の研究では見落とされがちであった、美学における知性の多様な役割も検討される。また、30年度は、バウムガルテンに関する辞書項目執筆の依頼が発生したが、その機を利用して、本研究の前半部(さらにはそれに先立つ研究結果)を総括する図書の執筆に着手する。さらに並行して、採用時研究計画調書の目的の2として掲げたバウムガルテンの美学の継承の課題にも、当初の計画に従い取り組むことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度に計画していた国外旅費が未執行である点が主たる理由である。研究に必要となる主だった資料が本国でも入手可能となった点、ならびに本務校での業務との日程調整が難航した点などが主な理由である。30年度は、バウムガルテンの美学の歴史的継承関係を、当地の資料などを参照しつつ研究することが計画されている。そのため海外調査は必須となる。またその研究には、計画以上に資料費がかかる可能性が高い。繰越額はこれらに補填される。
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