研究課題/領域番号 |
16K16715
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
桑原 俊介 上智大学, 文学部, 助教 (30735402)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バウムガルテン / 美学 / 美的真理 / 感性的真理 / aesthetica / ヴォルフ / 形而上学 / 論理学 |
研究実績の概要 |
1、29年度の「魂の根底」に関する論文への追加研究・加筆・修正(雑誌論文1) 2、バウムガルテンの論理学と美学を、人文主義以降の心理(学)主義的論理学の系譜の下で捉え返す研究。バウムガルテンの美学は、論理学との類比において「下位認識能力の論理学」として構想された。だが先行研究では、バウムガルテンが基礎とした当時の論理学の状況・基本理念が、中世までのアリストテレス論理学や20世紀以降の形式論理学とは異なる独自の発展を前提としていた点に十分な注意が払われてこなかった。むしろバウムガルテンが前提としていた論理学とは、純粋な論理形式を問うものではなく、人間の認識能力の自然なあり方に基づいて論理の形式を構成する論理学、つまり心理(学)主義論理学であった。この論理学は、一般的な論理学史研究ではその価値が認められず等閑視されてきた。そこには、人文主義的論理学、ポール・ロワイヤル論理学、ドイツ啓蒙主義論理学などが含まれるが、バウムガルテンが前提としていた論理学とは、まさにこの心理主義的論理学に他ならない。そこで本研究では、これまで等閑視されてきた心理主義的論理学の系譜を明確化した上で、バウムガルテンおよびヴォルフの論理学の基本理念を再構成し、かかる心理主義的論理学が、バウムガルテンの美学を可能にした条件、さらにはその歴史的独自性を明らかにすることを試みた(学会発表1、論文執筆中)(なお前年度より継続の研究の一部はここに組み込んだ)。 3、修辞学と美学との関係性の研究。バウムガルテンの美学の内容の多くは詩学や弁論術に基づく。ただし、修辞学も論理学と同様に、人文主義以降変化を見せ、18世紀前半は、人間学的な修辞学から言語論的な論理学へと変質を始めた時代である。なかでもとりわけ後者の変化に注目し、この変化がバウムガルテンの美学にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにする研究に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の実績2は、本来は29年度の前半に実施予定であった「心理学」に関する研究が、想定以上に重要な問題を孕んでいたため、大幅に拡張されたものである。そのため、29年度のそれ以外の計画、さらには30年度の実施予定であった研究に十分に着手することができなかった。30年度の終盤より着手した修辞学の研究も、想定以上の充実した内容を有することが明らかとなり、当初の計画の速やかな遂行を妨げている。だが、これらの想定外の問題の広がりは、問題自身が要請するものであり、決してそれを停滞と呼ぶことはできない。むしろ、計画段階では想像もできなかった重要な問題があらたに見出された点は、研究の全体としての質を大いに高めるものだといえる。
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今後の研究の推進方策 |
1、上記の実績3をさらに展開すること。バウムガルテンの美学に応用された修辞学は、バウムガルテンが学んだ古典修辞学を、彼なりに再解釈したものであり、ゆえにそれを単純に古代修辞学の応用とみなすことはできない。そこには、説得の術としての修辞学の理念に加え、システムとして捉えられた言語観に基づく修辞学の理念の片鱗がうかがわれる。この点を、人文主義以来の修辞学の歴史的変容、18世紀前半のドイツ語圏における修辞学の理念、さらにはバウムガルテンの修辞学の捉え返しという文脈の下で明らかにすること、その上で、修辞学の美学への応用のより詳細な内実とその意義を明らかにすること。 2、バウムガルテンの美学の直接的な継承を、マイアーなどを中心として再構築し、さらにより広い哲学における継承をより包括的に調査する。 3、本研究全体の成果を、書籍として出版する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、平成30年度で終了の予定であったが、「科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)補助事業期間延長」を適用し、1年間期間が延長されたものである。その点を加味した上でなお次年度使用額がごく少額(70円)生じた理由は、研究の推進に合わせて執行したため、実際の執行額と当初の見込み額との間に差異が生じたためである。
次年度使用額は、研究のための図書購入などに充てられる予定である。
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