関西圏を中心とする調査から、施工当初からピアノを備える建築が数多くあることがわかった。ヴォーリズは、洋風住宅を購入しようとする日本人に、居間にピアノを備えることを説いている。ヴォーリズ建築は文化財に指定され、現存するものも多い。ピアノや蓄音器、レコード、楽譜も保管する京都の駒井家住宅を事例に、関連する史料もあわせて考察し、具体的な音楽の実践状況を明らかにした。 ヴォーリズは、ミッション系女学校の設計も数多く手がけている。プール学院を事例に、授業や学校行事での使用、地域の西洋音楽文化の普及との結びつき、ヴォーリズに新校舎の設計を依頼するための資金調達など、教育機関におけるピアノの多様な役割を示した。 ヴォーリズ自身、ピアノやオルガンを弾くことができ、自宅や建築事務所にも楽器を備え、アメリカ製のピアノやオルガンを輸入・販売していた。ヴァイオリンを弾くことができ、合奏を楽しんだ秘書髙木五郎の伝記からは、ヴォーリズが「教養ある人格を造る」ものとして音楽を捉えていたことがわかった。 コロラド・カレッジの学校史やヴォーリズが在学していた頃の校舎の調査から、ヴォーリズ建築とそこに備えられたピアノのモデルの1つとして、同校が考えられる可能性が浮かびあがった。 総じて、建築を中心に築かれてきたヴォーリズ研究に対して、音楽学の視点から新たなヴォーリズ像を提示することができた。洋楽受容史研究に対しては、ドイツのHausmusikを中心に論じられてきた日本の家庭音楽について、音楽が実践された場(住宅)に着目し、日本の洋風住宅の多くがアメリカンホームをモデルとしており、ヴォーリズ建築のみを通しても、ピアノの普及に一役買っていたことを具体的に示し、アメリカ由来の影響を再考する意義を見出した。
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