研究期間の最終年度である平成30年度は、平成28~29年度に行った当該テーマに関する総まとめを行う年度とした。 主には、これまでの研究交流で得た知己や知識をもとに、リーマンの和声理論およびネオ・リーマン理論の歴史化を進めた。ネオ・リーマン理論は1990年代後半からアメリカにおいて活発化し、現在注目されている分析理論の一つである。この理論はクラシック系音楽だけでなく、さまざまなジャンルに応用されているが、もともとは19世紀後半から20世紀前半にドイツで活動した理論家フーゴー・リーマンの和声理論に由来する。本研究では、この理論を分析理論として発展させる「音楽分析」研究と、さまざまな理論的動向を歴史的に文脈づけようと試みる「音楽理論史」研究の両方を遂行した。このような取り組み、すなわちネオ・リーマン理論とリーマン自身の関係に関する議論は、2010年代以降に散発的にみられるようになった。そこで本研究は、これらの先行研究をもとに、ネオ・リーマン理論の論者たちがリーマンの理論の何をどのように受容したのかを精査し、より広範囲にわたる視野から、リーマン以前、リーマン以降、そして現今のネオ・リーマン理論の理論家たちにかけて、当該理論がどのように変遷していったかを考察した。 さらに、音楽理論に対する歴史的考察を分かりやすく世に発信し、より多くの人や社会に還元することを目標に、シェンカーやリーマンの音楽思想に関する入門書を編纂した。これまで、和声法に関する教科書や一つの和声論に関する図書は出版されていたが、複数の和声理論を通史的にたどり、それぞれを歴史化した音楽理論史的図書は日本ではみられなかった。そこで「理論史」という観点から、これに従事する専門人材を集めて協働作業を行った。具体的には、古代から現代に至るまで、ドイツ・フランスを中心にイタリアやアメリカを含めた和声理論の歴史を解説した。
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