最終年度である本年度は、とくに1960年代のイタリアにおけるポップ・アートの受容に注目して研究を進め、国際的文脈におけるイタリアの芸術家たちの文化的葛藤を浮き彫りにすることを試みた。具体的な成果は以下の三点である。 1.ローマにおけるポップ・アートの展開:マリオ・スキファノ、タノ・フェスタ、フランコ・アンジェリらローマのポップ・アーティストたち、および彼らを支援したラ・タルタルーガ画廊について調査を行った。また、ポップ・アートが当時イタリアにおいていかに受け止められていたかについて、新聞・雑誌等の調査を行った。この結果、ポップ・アートはアメリカ文化と関連づけられつつも、そのイタリアにおける伸長は、むしろヨーロッパ文明の危機の徴候として理解されていたことがわかった。 2.ピーノ・パスカーリの個別研究:パスカーリはアメリカ美術に強い影響を受けつつ、独自の彫刻群を制作した作家である。パスカーリ財団のアーカイヴ資料を検証し、彼の「虚構の彫刻」と呼ばれるシリーズが、アメリカのポップ・アートとの交渉/葛藤のもとに形成されたものであることを明らかにした。この成果は論文にまとめ、公表した。 3.地方習俗の残存の問題:パスカーリの制作には、ポップ・アートの影響だけではなく、イタリア南部に古くから根付いていた呪術的儀礼の影響が認められる。1960年代以降のイタリアの芸術には、そのように、社会の均一化の過程で失われていく地域固有の習俗や儀礼を芸術に取り込もうとした例が見受けられることを明らかにした。
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