本課題の目的は、東洋美術史上重要な画家の一人である文徴明(1470~1559)の作画活動における古画学習の実態を精査することで、彼の画業において古画学習が果たした重要な役割と、そうした彼の制作態度が、後の画家達にどう作用したかを考察することにある。 本年度は、これまで蓄積してきた史料をもとに、文徴明そして沈周の制作態度について、実作品と文献史料から分析した。その成果の一部をもちいて、担当展覧会や小論文において、清時代の画家である楊晋、日本近代の文人画家・富岡鉄斎などの作画活動を「倣古」の観点からとりあげた。それによって、時代も場所も異なるが、文徴明の時代を経て更なる重要性を獲得した古画学習と、その末に生み出される倣古図が、ひろく東アジアで継承され、共有されていたことの一端を提示し、東洋美術史における文徴明の重要性をより明らかなものにした。更に国外(中国・台湾)の美術雑誌において小論文(中文訳)を掲載し、東アジアにおける倣古図の広がりについて情報の共有をはかった。 なお研究成果の直接的な結実の一つとして、2020年秋に展覧会「特別展 明清時代の文人画(仮)」(於大和文華館。2020年10月10日~11月15日)を開催し、陳列作品と図録掲載論文、関連シンポジウムなどによって、本課題の成果を国内外に発信する。展覧会の開催は既に決定しており、現在作品選定と論文執筆を並行して行っている段階にある。更に、これら本課題による成果と博士論文(2013年提出)の内容をまとめた書籍を刊行する準備に入りたい。
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