本研究の最終年度となる平成30年度は、平成28年度から29年度のギルランダイオ一族に関する調査内容を中核として、発展的内容の研究を中心に行った。具体的には、ヴェネツィアのベッリーニ一族などの他地域で活躍した芸術家一族の事例や、フィレンツェでギルランダイオ一族と関係をもったラファエロの事例などを検討の対象とし、比較を行った。そのために、先行研究の検討に加えて、夏期に現地での調査を行い、ヴェネツィアやペルージャなどイタリア各地で作品実見を行うほか、ロンドン・ベルリンで行われたマンテーニャおよびベッリーニ展、フィレンツェで行われたヴェロッキョ展などの内容を検討した。その結果、フィレンツェの事例を中心としつつも、イタリア・ルネサンス全体の動向を鑑みた分析を行うことが可能となった。 このうち、ラファエロの初期活動については、批評史上の新知見を得ることが可能となり、2018年7月には名古屋大学人文学研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センター主催シンポジウム「西洋美術史における〈古典〉と〈古典主義〉」における発表(「古典の形成:チッタ・ディ・カステッロ時代のラファエロ」)を行ったほか、同発表を発展させた論文「ルネサンス期の古典概念とラファエロ初期様式の形成」を論集『古典主義再考』(木俣元一/松井裕美編)のために執筆した(原稿提出済み)。同研究においては、ルネサンス以降の典型的な芸術家像の成立と同時代の実際の制作との間の関係を分析し、ラファエロ初期の様式形成についてのヴァザーリの『美術家列伝』などの批評文献における偏向的記述を具体的な作品分析にもとづき明らかにした。
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