研究課題/領域番号 |
16K16737
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研究機関 | 国立歴史民俗博物館 |
研究代表者 |
島津 美子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (10523756)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 赤色染料 / 錦絵 / 明治 |
研究実績の概要 |
2017年度は、明治期に輸入されていた赤色の染料と色材についての文献調査を主に行った。合成染料は、幕末明治期以降に導入されたといわれるが、実際に使用が本格化するのは明治中頃であって、明治初期にはほとんど実用化していなかった様子がうかがえる。まずは、染料は輸入し、染色法の実用化が図られたようである。一方で、色材については、明治期を通してレーキ(染料を粉末に加工したもの)の状態で輸入されていたと考えられる。合成染料の種類が増える明治中頃以降は、すでに使用が確認された合成のエオシン以外にも、アゾ染料などが色材として輸入、使用されていたものと推測される。 他方、明治初期の錦絵から見つかった赤色色材は、天然染料のコチニールが原材料であった。さらに、錦絵に多用されたといわれる「洋紅」は、コチニールから作るカーマインレーキであったことが複数の文献で確認された。コチニールは、欧州では南米大陸発見後から染色用としても色材としても利用されている。日本では、コチニールが赤色の染料であることは知られていたものの、染色された生地や製品の輸入に留まっていたようであり、1800年頃であっても染色法は伝わっていなかったようである。他方、洋紅の輸入は1850年以降に始まったとされるが、江戸時代の錦絵資料からカルミン酸が見つかった事例は、管見の限り報告されていない。コチニールが、カーマインレーキの原料であることが明らかとなったのは、早くても幕末であり、日本国内では、染料としてのコチニール(虫)と色材としてのカーマインが別々に認識されていたことを示している。以上から、合成、天然のいずれにしても、染色用と彩色用では、利用の導入期や流通時の形態が異なっていたことが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
染色用と彩色用で、輸入の形態が異なっていた可能性が示されたため、まずは文献調査により、当時の輸入や利用の記録を見直した。このため、染織資料や国内外の絵具の分析調査への着手が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
染料を輸入後に国内で染色用と彩色用に使い分けていたのではなく、輸入の時点で染料と色材に分かれていたことを踏まえ、すでに事例分析が進んでいる色材利用の実態をより詳しく調査していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
国外調査が実施できなかったこと、また実験・研究補助の人員が確保できなかったことによる。2018年度に国外調査等を実施する予定である。
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