令和4年度は最終年度となるため、コロナ禍に伴い遅れの生じていた極書データの収集と目録化、および関連する文献資料の調査を進めると同時に、これまで蓄積した情報の整理と分析を行い、研究成果を形あるものへと纏める作業を行った。 外部機関での調査状況は、一時期に比べかなり好転したが、それでも一部機関では調査を断念せざるを得ないケースがあった。そうしたなか、狩野派の画家が作成したものを中心に、約20件の極書について調査の機会を得、新たなデータを収集することができた。研究期間全体を通じて調査した極書の点数は、約180件の作品に付属する、計約300点となった。年度毎の調査件数は当初の計画を下回ったものの、予期せぬ延長により、結果として調査件数の目標をほぼ達成し、考察の前提となる情報を十分に得ることができた。 年度後半では、これらの情報を整理し、関連資料を参照しつつ分析する作業に入った。極書の作成者は多岐にわたるが、主たる考察の対象は狩野派の画家に絞り、①基準となる極書の選定、②画家ごとの標準的な形式の把握、③それらの比較を通じて見えてくる形式の変遷、④鑑定行為一般を今後さらに考察していくための課題等を検討した。その成果は、拙稿「狩野家による極書の発給」(筒井忠仁編『仏師と絵師 日本・東洋美術の制作者たち』思文閣出版、2023年)としてまとめ、公表している。これにより、狩野派の画家が作成した極書については、その史料批判を可能ならしめる情報を共有するという研究目的を、一定程度達成することができたと考えている。
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