研究課題/領域番号 |
16K16755
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
木原 圭翔 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, 助手 (30755731)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 古典的ハリウッド映画 / スタンリー・カヴェル / ジョージ・キューカー / アルフレッド・ヒッチコック / 映画理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1910年代半ば頃から1960年頃までにハリウッドで製作された映画を「古典的ハリウッド映画(classical Hollywood cinema)」という概念で包括的に理解する発想が、どのようにして顕在化してきたのかを検討すべく、該当する時代の映画を対象にした理論的、批評的、哲学的言説を精査し、その上で、現代の映像研究における「古典的ハリウッド映画」概念の意義を明らかにすることである。 本年度は、昨年度に引き続き、当時のハリウッド映画を対象とする言説の体系的調査を継続して行うとともに、哲学者スタンリー・カヴェルが執筆した一連の古典的ハリウッド映画論の再検証を中心的に行った。カヴェルは古典的ハリウッド映画もまた、自己のメディウムに対して自らの視線を投げ返す自己反省的なモダニズム芸術として捉えることで、独自の映画論を展開してきた。こうした発想は、映画に内在する種々のイデオロギーを無批判に受け入れ、それを観客に伝達していたとする現代映画理論の古典的ハリウッド映画批判に真っ向から対立するという点で重要な思想である。 具体的には、博士論文においては考察が不十分であった以下のような問題をより詳細に検討した。(1)カヴェルの映画論の最重要キーワードである「自動性(automatism)」概念の批判的再検討、(2)古典的ハリウッド映画と精神分析の親近性に関するカヴェルの議論の考察。(3)アメリカにおける映画批評の系譜とカヴェルの古典的ハリウッド映画論の関係性の調査・分析。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、カヴェルの映画論については、博士論文の再検討によって問題点を洗い出し、考察すべき課題の所在を本年度で明確にすることができた。具体的には、カヴェルの映画論における精神分析学的考察の重要な参照点として、1940年代ハリウッドの女性映画『情熱の航路』(Now, Voyager, 1942)論におけるジェンダー及び観客性の考察についての検討に着手することができた。 また、今年度はロサンゼルスのマーガレット・ヘリック図書館にて、本研究における重要監督の一人であるジョージ・キューカー作品の一次資料の調査を行った。とりわけキューカー後期の重要作である『チャップマン報告』(Chapman Report, 1962)のプレスシートや雑誌記事を精査し、作品論執筆のために不可欠な言説調査を行うことができた。 上記いずれの調査研究も、来年度に論文として発表する予定だが、その準備期間として本年度の研究は十分な進展があったと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、本年度の研究調査を踏まえ、スタンリー・カヴェルに関する論考と、ジョージ・キューカー作品を対象にした論考をそれぞれ論文としてまとめていく。また最終年度となるため、これまでの研究成果を統括し、「古典的ハリウッド映画」概念の問題点を明らかにし、該当時期のハリウッド映画をめぐる新たな視座を提起していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張に関連する費用(航空費、宿泊費、日当)の計算において、軽微な差額が発生した。この差額分については、翌年度の消耗品費(書籍、関連映像資料)として使用する。
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