研究課題/領域番号 |
16K16757
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
雲岡 梓 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (30732888)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 荒木田麗女 / 歴史物語 / 鵙の草ぐき / 竹の落葉 / 笠舎 / 近世連歌 / 自注 / こころの種 |
研究実績の概要 |
荒木田麗女の独吟連歌集『鵙の草ぐき・竹の落葉』収載句に自注が付されていることに注目し、自注の分析から本歌や本説および付合の意図を考察した。麗女が『源氏物語』『伊勢物語』という一般的な物語作品だけではなく、『宇津保物語』『栄花物語』『古事記』『日本書紀』『続日本記』『方丈記』『三代実録』を本説に用いたこと、同様の傾向が他の近世連歌にも見られ、近世期の連歌作者が中世連歌からの脱却を目指し、古典教養を深めることで新たな表現を生み出そうとしたことを明らかにした。その成果を2019年5月25日に江東区芭蕉記念館にて行われた俳文学会東京研究例会で「荒木田麗女『鵙の草ぐき・竹の落葉』について」との題目で発表した。それに関連して、大阪大学文学研究科所蔵の連歌資料『昌廸独吟連歌並注』の調査を行った。『称名寺連歌』『紫野千句』等の麗女と同時代の近世連歌資料についても研究を進め、2019年5月12日に青山学院大学で行われた連歌注釈集刊行会で「『称名寺連歌』46句~50句」について発表を行った。 また、歴史物語『笠舎』の研究を進め、巻1から順次、翻刻・典拠一覧表作成・典拠分析を行っている。典拠分析によって、古代の記事を執筆する際、麗女は『日本書紀』を骨子とし、そこに『古事記』『水鏡』『先代旧事本紀』『万葉集』によって肉付けして記事を構成したことを明らかにした。その成果を「荒木田麗女『笠舎』巻一・巻二の翻刻と典拠の考察」(『日本文藝研究』71-1、関西学院大学日本文学会、2019年10月)と「荒木田麗女『笠舎』巻三~六の翻刻と典拠の考察」(『日本文芸研究』71-2、関西学院大学日本文学会、2020年3月)として発表した。 麗女の『万葉集』歌語辞典『こころの種』についても、底本・語注の出典の調査を行い、得られた成果を2020年3月16日に関西大学で行われた研究会、月曜会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度より勤務先が北海道から京都に変わり、荒木田麗女が文学活動を行った伊勢や上方での資料収集が容易になったことから、当初の計画以上に研究計画が進展した。 特に麗女の自筆資料を多数所蔵する伊勢の神宮文庫・伊勢市立図書館・神宮徴古館にて頻繁に資料調査を行ったことにより、「慶徳麗女筆連句書」「自画自賛菊の絵」「和歌掛け軸」「麗女自筆句文」等の新たな資料の発見に至った。これらは荒木田麗女研究の幅を広げる発見である。 さらに伊勢の郷土史家からの聞き取り調査を行ったことで、麗女が居住した宇治、山田地域の様子・文化水準・経済状況・御師の生活・近代以降の文人顕彰活動・明治大正期の郷土研究についての地元ならではの情報と、出版されておらず一般には入手することができない明治・大正期の郷土史家の研究ノート・逸話収集ノート等の資料を入手することができた。これらが、研究が大幅に進展した要因である。 得られた資料や調査結果をもとにして、連歌についても歴史物語についても並行して研究を進めることができ、どちらも研究発表や論文の形で成果を公開することができた。研究発表を行った「荒木田麗女『鵙の草ぐき・竹の落葉』について」は現在論文執筆中である。歴史物語『笠舎』についても、現時点で全33巻中6巻までの翻刻・典拠一覧表作成・典拠分析が終了しているが、今後も同様の方法で全巻の研究を進める予定である。 上記のように、本年度の研究成果により、来年度以降の研究方針も具体的に固まったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
①麗女の連歌資料『鵙の草ぐき・竹の落葉』と同時代の連歌資料を比較し、近世連歌の表現が中世連歌からどのように変化したかを述べる論文を執筆する予定である。 ②歴史物語『笠舎』について、巻7~巻10の翻刻・典拠一覧・典拠分析を収めた論文「荒木田麗女『笠舎』巻七~十の翻刻と典拠の考察」を執筆し、2020年10月に発行される『日本文芸研究』72-1(関西学院大学日本文学会)に掲載する予定である。 ③麗女が『笠舎』に先立って執筆した歴史物語『池の藻屑』『月のゆくへ』は、歴史物語の系譜の最後の作品と位置付けられているにもかかわらず、これまで注釈書はおろか、最善本に基づく翻刻さえ公開されていない。そこで、最善本である神宮文庫所蔵の『池の藻屑』版下本、『月のゆくへ』尚女清書本によって翻刻を行い、詳細な語注・現代語訳を付した注釈書を作成・公開する。 ④『万葉集』歌語辞典『こころの種』の執筆動機・底本・訓読方法・語注の出典について、研究会発表を行って得られた意見・指摘をもとに内容を発展させ、学会発表を行う。
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