最終年度である令和2年度においては、平成28年度から本研究費の助成を受けて調査・収集してきた資料をもとにして、主として荒木田麗女の歴史物語と連歌作品の典拠・特徴等についての研究を進めた。 歴史物語については、長編歴史物語である『笠舎』全33巻中17巻までの翻刻と内容の分析を終え、神武天皇から高倉天皇に至るまでの歴史叙述のうち平安時代の仁明天皇までの記述内容と典拠等を明らかにした。さらに『笠舎』の序文と跋文が、先行する『大鏡』『今鏡』『水鏡』『増鏡』に見られる、長寿の老人が実体験として歴史を語るという昔語りの形式をどのように踏襲し、また変化を付けているのかを考察した。以上の研究成果について論文にまとめ、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』巻七・八の翻刻と典拠の考察」(『日本文芸研究』72巻1号、2020年10月)、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』巻九・十の翻刻と典拠の考察」(『日本文芸研究』72巻2号、2021年3月)、「荒木田麗女の歴史物語『笠舎』の序文と跋文について」(『日本文学』第70巻1号、2021年1月)として公開した。 連歌作品については、伊勢の文人の逸話を記す度会貞多『神境秘事談』、麗女の父武遇の連歌発句集『夏木集』、明治時代の『伊勢新聞』の記事内容等から、伊勢の地に伝承されてきた麗女の逸話を分析し、麗女が若年の頃より歌人・連歌作者として地域で尊敬を集め、「伊勢小町」とあだ名されていたことや、「労咳に罹患した麗女が歌道を志したことで病を克服した」という歌徳説話めいた話が信じられていたことを明らかにした。以上のことについて、「荒木田麗女の逸話の研究」(『伊勢郷土史草』第54号、2020年10月)との題で論文にまとめた。
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