令和4年度は最終年度として、これまでの調査・研究を総括することを目指した。この数年、本研究の活動の2本柱のうち、1本目である〈『夜の寝覚』の新出資料を中心とした欠巻部分の調査・検討〉はなかなか思うように進められなかった。新型コロナウィルスの感染拡大により、行動の制限がかかったことに加え、感染拡大に伴う授業対応など諸々の学内業務に忙殺されてきたのが大きな理由である。 とはいえ本年度は状況に慣れてきたこともあり、先に入手した資料の分析を少しずつ行うことができた。そこで得られた分析結果は、本研究の活動の二本目である〈欠巻部分と現存部分とを統一的に把握するための分析視点の抽出〉に繋がるだけでなく、他作品との文学史的関係を考察するうえでも、大きな意義を持つものであった。年度内に間に合わなかったがさらに分析を進め、その成果を近日中に発表する予定である。 また、『夜の寝覚』という平安後期作品を扱ううえで、同時代の前期作品を視野にいれる必要があることは言うまでもない。そこで『夜の寝覚』との比較をも念頭におきつつ、『源氏物語』の考察を試みた。その成果を「『源氏物語』御法巻の「日」と「露」の情景と『観普賢経』― 紫の上の死の形容表現と光源氏の生―」としてまとめ、平安文学研究において代表的な学会誌『中古文学』110(2022.11)に発表することができた。 他の文学作品との比較検討を見据えながら、『夜の寝覚』の現存部分と欠巻部分とを統括・包括的に論じ、その特質を解明していくことで、『夜の寝覚』を基点とした新たな文学史再構築に向けて多くの知見を提供することができたと言えよう。
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