軍記物語の諸本は、その描く世界も、表現も、異本相互の関係も、それぞれの作品ごとに多彩で複雑である。しかし、古態といわれる段階から、詞章の洗練された、広く読まれるテキストが立ち上がってくる過程には、複数の作品を通じた共通性が認められる。古態本の世界を支えていた構造が大きく解体され、変形され、新しく歴史を描き直す物語が作られてゆく。本研究では、類似した過程を経て物語が生まれ変わってゆく様相を、複数の作品にわたってとらえることができた。軍記物語の諸本流動を文学史的な視野から理解するための基礎となる成果である。
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