本研究最終年の平成30年度は、前年度にできなかったベルリンでの2回目の文献調査・収集を行った。また、本助成による現時点での研究成果として、口頭発表2件と論文1件を発表した(ただし、論文1件は同一年度内の口頭発表にもとづく)。 ベルリンでの文献調査・収集は、ベルリン州立図書館のWesthafen館とUnter den Linden館、ドイツ連邦公文書館の3館で行った。その結果、ベルリン州立図書館所蔵の"Die Literatur"に、『太陽のない街』と『一九二八年三月十五日』ドイツ語版の新刊紹介があることを確認した。また、ドイツ連邦公文書館所蔵の"Revolutionaeres Asien"1~3号を調査し、先行研究で「モリジマ」と紹介された日本人の詩が、実際は"MORIJAMA"(=森山啓)の作品であることを確認した。これらの成果を前年度に作成したドイツ語文献における日本プロレタリア文学関連記事目録に加え、整理を終え次第researchmapで公開をする予定である。 研究成果に関しては、まず、くまもと県民交流館パレアで開かれた『徳永直没後60周年記念講演会』(5月26日開催)において、「熊本が生んだ2人の世界的作家―国民文学とプロレタリア文学―」と題して、徳富蘆花『不如帰』と徳永直『太陽のない街』が西洋圏で多言語に翻訳された状況を比較検証した。そして、その成果となる論文を『時空を超えて:徳永直没後六〇年記念講演会報告書』(2018年10月発行)に発表した。次に、京都大学人文科学研究所で開かれた国際シンポジウム『日本・ルーマニア・ドイツ・中国・ソ連における社会主義と文化交流のネットワーク:文学、舞台演劇、映画』(7月21日開催)において、「ドイツにおける日本プロレタリア文学の翻訳」と題し、3年間の研究成果の総括となる発表を行った。
|