研究課題/領域番号 |
16K16762
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
蔦 清行 大阪大学, 日本語日本文化教育センター, 准教授 (20452477)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抄物 / 五山文学 / 黄庭堅(黄山谷) / 禅僧 / 林宗二 |
研究実績の概要 |
黄山谷の抄物の集大成とも呼べる『黄氏口義』と『山谷幻雲抄』は、ともに林宗二が編纂に関わった抄物であり、同一の資料に基いて成立した部分が多いことが明らかになっている。その共通部分を網羅的に調査し、どのような相違があるかを明らかにする。 それによって、当時の抄物ないし注釈書が、先行する抄物・注釈書類をどのように利用し、またそれをどのように乗り越えていったのか、明らかにするための基礎を打ち立てることができる。抄物は従来、国語学的な研究の資料としてのみ見られてきた感が強い。それを文化的な資料として活用し、中世の注釈史研究に新たな視角を提出することを目的とする。 以上のような研究目的のもと、本平成29年度は、索引の作成にあたって使用する伝本を検討した。幻雲抄には建仁寺両足院本と山口県洞春寺蔵本の二種があるが、両足院本は完本である一方一般公開されておらず、洞春寺本は影印が書籍として公刊されているが、全巻が整わない零本である。先に報告した『黄氏口義』が完本についての索引であるため、本『幻雲抄』も完本である両足院本を対象とすることとした。 研究実績として、Chinese Anecdotes in the Shomono (commentaries written in kana on Chinese classic books)と題する研究発表を、リスボンで開かれたEAJS2017(15th International Conference of the European Association for Japanese Studies)で行った。 本年度は、1月1日から育児休業を取得したため、研究の完成年度を延長し、平成30年度に研究を完了することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、平成29年度に予定していた課題は、完成した索引を利用して、当該資料の学史的・文化史的位置づけを明らかにする研究論文を執筆する、というものであった。 索引は未完成であるが、当該資料を用いて、山谷の抄物群に現れる説話について論ずる研究発表Chinese Anecdotes in the Shomono (commentaries written in kana on Chinese classic books)(発表言語は英語)をリスボンで開かれたEAJSの研究集会EAJS2017(15th International Conference of the European Association for Japanese Studies)で行い、それに基づく論文を執筆して、現在刊行準備中である。索引が完成していないという点では「やや遅れている」と評価せねばならないが、論文の執筆が完了している点を勘案して、「おおむね順調に進展している」という自己評価に決した。 なおヨーロッパでの研究発表について附言すれば、当地では日本以上に抄物資料の存在が知られておらず、わずかに知っている研究者も、ほとんどは日本語史の資料としてその名を聞いたことがあるという程度にとどまっていることが分かった。抄物が中世後期の文化資料として高い価値を持つことを、より広く、そしてわかりやすい形で周知する活動が重要であることを改めて認識する機会となった。
今後の索引の作成に関して、これまでの調査の結果から、用例の収集・データベース化にあたっては、旧研究課題(引用人名・書名より見る『黄氏口義』の学史・文化史的意義)でのノウハウを応用することができることが見込まれる。可能な限り旧研究課題で使用したモジュールを使用し、共通化をすすめて、執筆のコストや使用の利便性を高めたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、当初の予定を大きく変更することなく、計画通りすすめることにしたい。29年度は、1月1日から育児休業を取得したため、研究の完成年度を平成30年度に延期している。そこで、本来平成29年度に予定していた課題を、30年度に実施することとしたい。その課題は次の2点である。 1,異なる名前で記された同一人物・同一書目の名寄せ 2,索引・研究論文の発表 このうち2については、研究論文は既に執筆を完了して公刊を待つのみとなっている。索引を完成させた上で、さらに余力があれば別の論文にも取り組みたいが、優先順位はやや低くなる。 索引は、国語学国文学の研究者にとっては有用性の明らかなものと信ずるが、それ以外の分野、例えば国史学や中国文学・和漢比較文学などの分野の研究者にとっては、必ずしも使途が明確でないであろう。そのような分野の人々にも、索引がどのように利用でき、それを用いてどのようなことを明らかにできるのか、ということを簡潔に紹介したいのである。これらは、研究代表者の所属大学の紀要、あるいは所属学会の機関誌に投稿する形で発表し、多くの研究者が利用できることになることが望ましい。しかし、研究報告はともかく、索引については、これだけの頁数のものを掲載することは、ふつう、現実的でない。紙媒体としては研究報告を印刷して関係諸機関に配布することとし、データはインターネットを通じて、何らかの形で広く利用できるようにする。本研究の意義の一つは、文化的な資料として活用する基盤を整えるところにあると考えている。従って、単にモノとしての索引を整えるだけでなく、それを利用できる環境および簡単な手引きを用意することも必要なのである。
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次年度使用額が生じた理由 |
育児休業を取得し、研究期間を平成30年度までに延長したため。
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