黄山谷の抄物の集大成とも呼べる『黄氏口義』と『山谷幻雲抄』は、ともに林宗二が編纂に関わった抄物であり、同一の資料に基いて成立した部分が多いこと が明らかになっている。その共通部分を網羅的に調査し、どのような相違があるかを明らかにする。それによって、当時の抄物ないし注釈書が、先行する抄物・注釈書類をどのように利用し、またそれをどのように乗り越えていったのか、明らかにするための基礎を打ち立てることができる。抄物は従来、国語学的な 研究の資料としてのみ見られてきた感が強い。それを文化的な資料として活用し、中世の注釈史研究に新たな視角を提出することを目的とする。 以上のような研究目的のもと、平成30年度は、本研究課題当初からの目的でもある、引用される人名・書名の索引を完成させた。『黄氏口義』が3500項目程度の索引であったのに対し、『山谷幻雲抄』は7000項目に近いものとなり、後者の方がはるかに多くの説を取り入れていること、それでも『幻雲抄』に存在せず、『黄氏口義』にのみ存在する系統の抄もあることなどが明らかになった。そのほかにも、いくつかの研究の着想を得られた。たとえば黄氏口義・幻雲抄両抄中に現れる人名「竹田快翁」について先行研究があることを発見した。また、黄氏口義・幻雲抄に現れる桃源瑞仙の説の内容から、現在桃源の説を一韓が聞き書きしたとされている抄についてその真偽を確認することができることに気づいた。これらは今後学術論文等で発表することになる。 今期の研究実績としては、第32回日本語日本文化教育研究会(6月30日)において、「ゾンゾ攷」と題する口頭発表を行った。また、森田貴之・小山順子ほか編『アジア遊学』223(勉誠出版、9月)に掲載した論文「中世後期の漢故事と抄物」においても、本研究によって得られた知見が生かされている。
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