研究課題/領域番号 |
16K16763
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
野本 瑠美 島根大学, 法文学部, 准教授 (40609187)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 和歌文学 / 百首歌 / 奉納和歌 |
研究実績の概要 |
本研究は、奉納和歌が、どのような歴史的経緯を経て生成し定着したかを明らかにすることを目的とする。平成28年度は、(1)奉納和歌の定義に関する研究と(2)奉納和歌に関する基礎的資料の整備についての研究を行う予定であった。 1については、平安時代の勅撰集・私撰集・私家集を対象に、詠歌事情から神仏に「奉られた」と見なせる和歌を調査し、「奉納」という行為の具体的様相を明らかにすることを目指したが、今年度は先行研究の調査と資料収集の段階に留まり、分析や成果の発表には至らなかった。だが、調査の過程で平安末期の奉納家集の構成に関する新たな研究課題が発見されたため、次年度内に成果を発表できるよう取り組んでいきたい。 2については、「天神仮託歌集」に関する資料整備を実施した。奉納と同じ信仰心を土壌として生まれた作品に、神を作者に擬した家集・百首(仮託歌集)の存在が挙げられる。実施者はこれまで、天神に仮託された百首の伝本調査・分析を通して、従来未詳とされてきた天神仮託百首の成立過程の一端を明らかにし、表現分析や他作品との比較等を容易にするための本文データベースの作成に取り組んできた。本年度は、前年度に入力した本文データの確認作業を行った。さらに、菅原道真と天神信仰に関わる小規模な研究会を立ち上げ、文学と歴史学の研究者による共同研究を行うこととした。第一回の研究会では、「天神仮託歌集」データベース作成の過程で浮上した問題点について報告し、次年度により詳細な研究発表を行う予定である。 また、関連する研究活動として、出雲大社に関わる古代から中世までの和歌についての講演(「和歌発祥の地出雲と古代・中世の文芸」)と、島根県出雲市の旧家に伝存する和歌資料をもとにした、市民向けの公開講座(連続講座「古典への招待~古筆と和歌を中心に~」、於手錢家(出雲市)、5月~9月)を全5回実施している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は研究期間の1年目にあたる。目標としていた奉納和歌の定義について成果をあげることができなかったため、進展はやや遅れていると判断した。ただし、これまでの資料調査の過程で、新たな研究課題やデータベース作成に関するヒントが得られた。本年度に得られた知見を活かし、次年度は研究成果の発表を目指したい。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、平安末期の私家集を中心に、和歌の「奉納」の実態を探っていくこととする。具体的には、賀茂社に奉納された『寿永百首』を中心に、「奉納」という目的が家集編纂にどのような影響を与えたのかを、他の歌集と比較しながら分析していく。 平行して、奉納和歌以外の同時代の和歌作品との比較検討も行っていく。実施者はこれまで奉納百首と応制百首を比較しつつ、奉納和歌がどのような詠作上の特徴を持つのか検討してきた。応制百首に見られる長歌形式による述懐から、平安末期~鎌倉初期において長歌形式に見出だされた意義を考察することで、同時代の奉納和歌と共通する思想・背景などを明らかにしていく。 前年度に引き続き、「天神仮託歌集」のデータ整理と増補を実施する。「天神仮託歌集」には、天神縁起などに見られる歌などが含まれる一方、天神以外の詠作も混在している。本文データに、出典や他出(他資料所見の有無)の情報を追加しデータの充実をはかる。また、本文データから仮託歌集に頻出する表現を洗い出すことで、どのような表現が「天神らしい」と見なされていたのかを明らかにし、その成果を研究会で報告する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、資料調査や研究発表のための旅費、データ入力のための謝金としての使用を予定していたが、別の研究プロジェクトからの旅費の支給、旅費の生じない場所での研究報告、実施者本人によるデータ整理のため謝金が必要なかった等の理由により、当初の予定よりも少ない金額で活動できた。そのため旅費等の一部を次年度に繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、資料収集のための旅費、図書等の資料購入、データ入力作業等の謝金に研究費を使用する予定である。
|