旧制中等教育の国語科教科書に収録された大正期の、谷崎潤一郎・菊池寛・志賀直哉の作品に焦点を当て、これらの作品が、いかなる教科書のどこに収録されているのかを調 査するとともに、教科書に収録された作品を可能な限り入手し、教科書別に、原作の文章にどのように改変されているのかを整理して、原作と教科書の文章との異同表を作成した。また、各々の教科書には、教員用の指導要領や参考書が備えられていることが多いので、改変がなされた要因を探るための参考資料として、それらを入手し、その内容を整理した。さらに、谷崎・菊池・志賀の原作の世界を丹念に読み、教科書で改変された箇所は、原作においてどのような意味を持っていたのか、改変によって原作から何が失われたのかを考察した。なお、調査の過程で芥川龍之介の教科書収録作品に焦点を当てることも必要であると考え、芥川作品も調査・考察の対象とした。そこからさらに、教科書編集者の教育観や道徳観、さらには、それに影響を及ぼしている同時代の教育観や道徳観を明らかにするために、資料収集を行った。最後に、谷崎と菊池と志賀と芥川の作品の教科書収録状況を比較し、各々の作家の特質や大正期の道徳観について考察した。 これらの調査や考察の結果を論文として直ちに発表する段階には未だに達していないのは残念であるが、基礎的な調査を地道に行ってきたので、その成果を少しずつ発表することができると予想される。
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