研究課題/領域番号 |
16K16765
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
多田 蔵人 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (70757608)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 江戸 / 近代 / 永井荷風 / 樋口一葉 / 泉鏡花 / 江戸清吉 / 水沫集 / 森鴎外 |
研究実績の概要 |
本年度は単著『永井荷風』を東京大学出版会より刊行した。荷風の文業における江戸趣味の位置を「引用」の技法として捉え直し、荷風小説のもつ複層性を指摘するとともに、近代文学史のなかで小説言語の位相にこだわり続けた作家としての荷風像を提出したものである。 単著論文として、「歌の位相――『にごりえ』論」(2017年3月、おうふう『論集樋口一葉 V』)、「《翻刻と解題》泉鏡花『銀鼎』完成原稿」(2017年3月、鹿児島大学国語国文学会「国語国文 薩摩路」)の二本を発表した。前者では樋口一葉の代表作『にごりえ』について、近世文芸以来の音曲の引用を指摘し、あわせて一葉がそれらの歌謡をどのように小説内に作用させているのかを論じた。後者では、宮城県亘理町江戸清吉コレクション所蔵の泉鏡花『銀鼎』について推敲過程を明らかにするとともに、鏡花の文学知識と物語生成との関わりを指摘した。いずれの論も近代文学における近世文学の利用状況を作品に即して論じたものである。 加えて、「『水沫集』の重版を読む」(2016年6~8月「日本古書通信」)において、森鴎外の代表的著作『水沫集』の版行過程を現物に基づいて追跡し、鴎外の本作りが近代書物世界の論理と深く関わるものであった点を指摘した。また「永井荷風新出書簡紹介――宮城県渡里町江戸清吉コレクションから」(2016年10月「日本古書通信」)では、高月晴之助宛永井荷風書簡を紹介するとともに、当時の蒐集文化と荷風との関わりを論じた。この二論文は、近世から近代にかけての書物の流通状況の変化と近代作家の動向との関わりを論じたものである。 なお2016年10月~11月の「江戸清吉コレクション展」(宮城県亘理町立郷土資料館)については書簡の翻刻を通じて協力したほか、「江戸清吉コレクションの文学的意義」と題して講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単著書『永井荷風』では近代における近世文学受容史の第一人者として名前の挙がる永井荷風について、その物語技法と近世文学との関わりを開明することができた。また単著論文は近世文芸と近代文学との関わりを作品・文献の両面から討究するという目的に合致するものである。文献資料の探索という点では江戸清吉コレクションをめぐる資料紹介と展示準備への参加、講演を行うことができた。総じて、初年度の作業としては大きく進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度については、本年度に提出した成果をもとに学会等で討議を重ね、情報収集を推進する年と考えている。既に昭和文学会研究集会、東アジア国際フォーラムでの発表を決定している。文献研究の点では、既に討究を続けている江戸清吉コレクションの所蔵資料を引き続き検討する。また、京都府立総合博物館所蔵の吉井勇関連資料についても、本年度は検討を開始する。加えて、作品に即した需要状況の成果発表も引き続き行う予定で、小林秀雄『実朝』、泉鏡花『眉かくしの霊』『売食鴨南蛮』、森鴎外『舞姫』などにおける近世文芸との関わりについて、論文化の予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に一度行う予定であった京都府立総合博物館への出張調査について、学務により遂行が困難となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
遂行予定であった京都府への出張調査を今年度中に行うことにより使用する。
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