研究課題/領域番号 |
16K16766
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
木下 綾子 聖学院大学, 人文学部, 准教授 (90530064)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 初唐太宗の固有名詞としての受容 / 8世紀中期における同時代的な受容 / 9世紀初期における中国古典の受容 |
研究実績の概要 |
申請者の研究方法および目的は、中国・初唐の太宗皇帝に関連する資料と平安時代の9世紀初期・中期・後期の漢詩文や漢詩文集の序文、天皇の詔勅、皇太子に対する教導書などを読解、比較検討することを通じて、100年以上にわたって太宗の文治政策や文学観、政治観の影響が見られることや、従来、9世紀初期に盛り上がり、中期には衰退したと見なされてきた「文章経国思想」は担い手が天皇から摂関家に交代しただけであり、9世紀後期においても続くことを証明する点にある。 当該年度は、関連資料を収集し、平安時代の文献において太宗に関連する記述を探索した。当初想定していた資料においては、太宗の名や著作名、事績に関する記述は確認できたものの、語句上、表現上の関連は捉えづらく、文人官僚たちに知的・思想的影響を与えたということまでは証明できないかと思われた。しかし、本研究に関連して、早稲田大学日本古典籍研究所における渤海使関係文筆資料研究会に参加し、奈良時代後期、8世紀中期の外交文書における典拠や用例を詳細に検討し、議論を交わす機会を得た。その結果、当時の文人官僚が同時代の中国・初唐の官製文書を摂取、使用しており、後の平安時代初期、9世紀初期の方がかえって前時代の中国・六朝の文書に倣っているという逆転現象を見出すことができた。また、その過程で奈良時代の漢詩文における太宗関連文書の影響に関する先行研究に触れ、本研究に有効な概念規定や新たな資料、データベースを知ったため、資料を追加収集した。 この研究内容や新たな知見、見通しについては、申請者の所属する聖学院大学の総合研究所2016第1回グルーバリゼーションと日本文化研究会における口頭発表、および、上記日本古典籍研究所紀要における注釈稿という形で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は【研究実績の概要】のとおり、初唐の太宗に関連する資料の影響が平安時代の資料に見出せるかという調査を研究の出発点とした。当初想定していた平安時代の資料においては、太宗の名や著作名、事績に関する記述は確認できたものの、語句上、表現上の関連は捉えづらく、文人官僚たちに知的・思想的影響を与えたということまでは証明できないかと思われた。しかし、時代区分や分野を広げて資料や先行研究を収集し、また、研究会の口頭発表をもとに複数の研究者と議論することで、本研究の遂行にとって有効な概念規定や新しい資料、データベースを知り得たため、計画を延引した。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、【研究実績の概要】および【現在までの進捗状況】にて言及した、太宗に関連する新しい資料とデータベースの収集を終わらせる。第2に、9世紀初期の文人官僚たちの理念を顕著にあらわす勅撰集の序文を対象に、太宗関連資料と共通する語句や内容を析出する。第3に、活動期間が長く、9世紀中期と後期にそれぞれ異なる立場で理論形成に携わった菅原道真の著作を対象として、同様の作業を行う。そののち、9世紀初期、中期、後期に共通して見られる太宗関連の記述について典拠・用例を探索することで、意味内容や文脈を理解し、9世紀文学史、および思想史における「文章経国思想」の受容についての見取り図を把握する。
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次年度使用額が生じた理由 |
【現在までの進捗状況】で記したとおり、当初想定していた資料における分析結果からは文学史的・思想史的な証拠までは得られないかと思われたが、時代区分や分野を広げて資料や先行研究を収集し、また、研究会の口頭発表をもとに複数の研究者と議論することで、本研究の遂行にとって有効な概念規定や新しい資料、データベースを知り、計画を延引したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
追加資料やデータベースの購入費、複写費、またそれらに伴う調査機関に対する謝礼、アルバイト人件費とする。
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