研究課題/領域番号 |
16K16767
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
本廣 陽子 上智大学, 文学部, 准教授 (40608931)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 源氏物語 / 古注釈 / 三条西公条 / 長珊聞書 / 連歌師 |
研究実績の概要 |
本年度(平成29年度)は、『長珊聞書』「御説」(公条説)のうち他の公条の注釈書には見られない独自の注が、実枝の源氏解釈にどの程度継承されているかの調査を完了させるとともに、『長珊聞書』「御説」と、連歌師紹巴の源氏物語注釈書である『紹巴抄』を比較、検討した。 さらに、『長珊聞書』に見られる「御説」の性格を考えるために、『長珊聞書』の諸注集成の方法についても考察した。『長珊聞書』の「御説」を取り上げる以上、『長珊聞書』において「御説」がどのように位置づけられているかは明らかにしておかなければならないからである。この点については、以前、「帚木」巻を取り上げて考えたことがあるが、それだけでは十分とは言えないので、今回は「花宴」巻を取り上げ、『長珊聞書』の各注を同時代やそれ以前の諸注釈の注記と比較しながら考察を進めた。その結果、『長珊聞書』は、『花鳥余情』『弄花抄』といった、『長珊聞書』以前の主要注釈書を引くことによって基本的な解釈を示し、それを補完する形で三条西公条の「御説」が引用されていることが分かってきた。『長珊聞書』に見られる公条説は、深く解釈と関わったものから、これまでの先行注釈書では項目さえ立てないような簡単な語釈に至るまで様々に見られ、公条自身の注釈書に見られる注と重ならないものも多い。口語的な言い回しや、講釈そのものの姿を残していると思われる注も含まれている。この『長珊聞書』に見られる公条説の特異性は、講釈の記録であるゆえの特殊性のみならず、『長珊聞書』の諸注集成の方針とも深く関わっているようである。『長珊聞書』を構成する上で、先行注とは違う公条の説が求められたという側面も、他の公条の注釈書とは性格の異なる注を残す結果につながったのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度(平成28年度)にやり残していた、『長珊聞書』「御説」と三条西実枝の源氏解釈との関係を明らかにする調査も完了し、本年度(平成29年度)に行う予定にしていた『長珊聞書』「御説」と『紹巴抄』の注記を比較する調査もほぼ終了した。さらに、『長珊聞書』における「御説」の位置づけについて、さらなる考察を深めることができたので、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度(平成30年度)は、本年度に行った、『長珊聞書』「御説」と『紹巴抄』との比較調査を踏まえ、三条西公条が連歌師に対して行った源氏解釈の一面を明らかにしていく。それと同時に『紹巴抄』の注の内実や、注釈書としての性格も考えていく。必要に応じて『紹巴抄』の諸本調査も行う予定である。また、同時代に作られた他の源氏物語の注釈書や、三条西家の説を取り入れている後の時代の注釈書も確認する。 来年度は最終年度であるから、これまでの調査をふまえ、『長珊聞書』を手がかりに、『紹巴抄』と合わせながら、公条の源氏研究を連歌師側から光を当てて総合的に考察したい。
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