研究課題
近世中後期における儀礼和歌研究の3年目として、前年度に引き続き、近世期に書かれた大嘗会和歌資料の調査と、それらに関わる論文や書籍の収集を中心に行った。主な資料調査としては、複数回にわたり宮内庁書陵部を訪問して、近世期の和歌を中心とした大嘗会関係資料を閲覧したほか、2月に京都府立京都学歴彩館にて大嘗会および寛政度の大内裏造営に関する資料を閲覧した。特に今回の研究にとって重要な書物については、撮影を依頼して紙焼き資料の作成を行った。そのほか、静岡県立図書館や静岡大学附属図書館、日本女子大学図書館、国立国会図書館、国立公文書館、東京大学史料編纂所などでも文献調査を行った。本年度の主要な成果としては、「元文三年(一七三八) 大嘗会の再興と上方中心文化の終焉」(鈴木健一編『輪切りの江戸文化史 この一年に何が起こったか?』勉誠出版)がある。これについては、前年度に公刊した「近世期の儀礼和歌-元文三年度大嘗会和歌の再興について-」(『日本文学研究ジャーナル』第4号)の成果を踏まえつつ、今回の再興に寄せる当時の江戸幕府将軍吉徳川吉宗をはじめとした幕府側の思惑や、荷田在満によって著された『大嘗会便蒙』の出版とそれをめぐっての顛末について記した。元文三年の政治や社会の動き、文化や文学の様相など、この年に起こった世の中の動きと合わせて述べることで、江戸時代の儀式や儀礼和歌がどのように位置づけられているのかを、研究者以外の一般の読者にも理解できるよう記述した。また、次年度に向けて、寛政度の大内裏造営の際の障子和歌に関する研究の資料調査を開始した。内裏造営については、歴史学や建築史の研究の蓄積も多いため、それらの論文を集めることと、歴史史料として残る原資料を集めるための予備調査を行った。
3: やや遅れている
これまでの進捗状況としては、資料調査に充てる時間が思うように取れなかったことと、以前からの課題である同名の書名を持った資料の同定作業に手間取ってしまったことから、当初予想していたような資料を見出すことができず、結果として大きな成果を上げるという所までには至っていないと言える。その中で、手探り状態でありながらも、調査資料の総点数を伸ばすことはでき、現存する近世期の大嘗会和歌関連の資料の大まかな傾向がつかめてきたことは、残り1年となった本研究を進めていく上で意義のあることであると考えている。
今後の方策としては、本研究の二つの柱として設定しながら、ほとんど手つかずとなっていた寛政度の大内裏造営の際の障子和歌に関する研究に着手することをまず行いたい。具体的には、日野資矩の活動に着目し『日野資矩卿寛政二年日記』(京都大学文書館蔵)や『新造内裏清涼殿大和絵障子歌』(宮内庁書陵部蔵)などの資料を読み解き、この度の障子和歌がどのように作られていったのか、障子絵とどのような繋がりをもっているのかについて、考察を進めていく。すでに建築史や歴史学の立場から研究の蓄積のあるこの分野に対して、これまでほぼ触れられることのなかった文学の側から新見を示すことができると考える。また、令和元年度の大嘗祭の催行に関連して、一般の人々の関心も高まり、啓蒙的な解説書や図版を多く掲載した図録類も出版されている。これらの成果についても学び、江戸時代以降の大嘗祭についても視野に入れた上で、江戸時代における大嘗会和歌のあり方についても考察することを目指している。本研究の成果をわかりやすく社会に対して還元するアウトリーチ活動も行っていきたいと考えている。
本年度に調査と撮影・紙焼きの作成を予定していた資料について、研究計画の遅れからそれらが実施できなかったことにより、次年度資料が生じている。この資料調査を行い本年度分の遅れを取り戻すことと、必要に応じて図書購入費に充てるという使用計画を立てている。
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