研究課題/領域番号 |
16K16772
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
戸塚 学 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (70633014)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 横光利一 / 永瀬清子 / 中里恒子 / モダニズム / 翻訳 / 生田長江 / 国際結婚 |
研究実績の概要 |
本年度は、コロナ禍の影響で、感染状況等を考慮して神奈川近代文学館における蔵書書き込み調査が進まなかった。 蔵書書き込み調査については、プルースト『失われた時を求めて』の調査があと少しであるため、感染状況拡大の様子を見極めながら、そのため、代わりに日本のモダニズム期における世界文学概念の広まりの結実を見定める作業をした。 文学作品に現れたモダニティを追究する作品論的な研究の方を進めることになった。具体的には詩人永瀬清子の第一詩集『グレンデルの母親』を分析し、表題詩の背景にあった女子教育における英文学史受容の影響などを見定めた。また、中里恒子の「乗合馬車」が国際結婚を扱っていることに着目し、当時の日本において外国人が日常的な生活を送っているという状況、近代初期と異なる西洋文化との出会いが起こっていることを作品に即してあとづけた。当該調査・研究については、蔵書調査をのせていた「奏」誌の春季・秋季二回にわたり「女たちのモダニティ」という総題で論稿を発表している。今後さらに論稿掲載を続け、単行本の形にまとめて発表する予定である。 また、横光利一の初期の作品である「日輪」をとりあげた。「日輪」においては従来からフローベール『サラムボオ』の文体的影響が指摘されているが、そこに生田長江による翻訳行為がどう関わっているかを見定めるために、『サラムボオ』の使用原本にあたると見られる、ドイツ語訳と英訳二種を参照し、生田がこれら三種の西洋語のテクストをどう翻訳したのか、そしてその翻訳にどのような特徴があり、その結果どのようにして『日輪』の文体が現出したかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主にコロナウイルスの感染拡大につき、東京から神奈川方面をまたぐ形での文学館での調査がためらわれた。神奈川近代文学館では、閲覧室を開いており蔵書調査を行うこと自体は問題ないと考えられたが、閲覧室における長時間の調査が感染拡大にどのように寄与するか、たとえば自身が東京方面からウイルスを持ち込む可能性などに鑑み、最終的に蔵書調査は断念せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、特に後期に感染拡大が一段落していれば、蔵書書き込み調査を再開しようと考えている。発表先の雑誌の〆切りが十一月であるため、その前の時期に書き込み調査を継続できそうな情勢であれば、調査を行おうと考えている。 また、引き続き日本のモダニズム期における女性作家の作品への世界文学概念の広がりを具体的に研究していく。すでに、宇野千代のデビュー作における都市モダニズムの影響を考察した論文を書き上げて発表の準備を進めている。後半には、ささきふさ、ないしは平林たい子、野溝七生子のいずれかを対象に、女性の作品に現れたモダニティの追究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、出張等ができず、また関係する洋書購入等を控えたため。今年度後半には、計画を進める予定である。
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