コロナ禍の影響で、堀辰雄旧蔵洋書調査(神奈川近代文学館所蔵、プルースト関連洋書の調査が、『失われた時を求めて』の最終刊の直前で止まっている)については移動などを控えた結果、想定通り進まないところがあった。このため、これまでの蔵書調査を進めた分について、現時点でのまとめの論考を用意しているところである(2022年度中に発表予定である)。これは、蔵書研究というものと、蔵書から読みとれる情報をどのように文学研究に生かすかについて、他の作家に関する蔵書研究の成果等を総覧し、それを堀辰雄蔵書のものと比べた上で、その意義や特徴をまとめるものである。 また、既に実施してある堀辰雄文学記念館における原稿調査に基づいた論考をまとめて発表した(堀辰雄「かげろふの日記」論)。当該論は、堀辰雄が日本古典というテクストを洋書等と同様に参照して、文章を構文レベルで現代日本語で訳すように変換し、新しい叙述を作り出している過程について分析をしたものである。 さらに、堀辰雄の先輩格であり、「文学」同人でもあった横光利一の文体と小説世界におけるその役割について論じることで、本研究における堀辰雄の翻訳行為を通した文体生成がどのような位置づけにあるのかを明確化する論考を発表した(『人文学のレッスン』所収)。
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