『苔の衣』の十数本を電子テキストデータ化した。前田家本系統には異同が少なく、穂久邇文庫本系統の諸本に比較的大きな異同が見られることに着目し、二冊本諸本及び巻三零本は穂久邇文庫本(完本)と近い関係にあること、絵巻本文は二冊本に拠るだろうことが判明した。また、三冊本は二冊本及び巻三零本に拠ったものと考えられる。 つまり、穂久邇文庫本系統の諸本は、A黒川四冊本、B龍門文庫本・盛岡公民館本の一類(Ⅰ)と、穂久邇文庫本・島原松平文庫本・絵巻の一類(Ⅱ)に分かつことができた。黒川四冊本は前田家本に近い本文をも有する点で西園寺文庫本と共に着目され、穂久邇文庫本系統の本文はⅠ系統も重視すべきである。
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