研究実績の概要 |
1, 『狭衣物語』現存写本の悉皆調査に先だって、『日本古典籍総合目録データベース』や各機関刊行目録、中田剛直氏『校本狭衣物語』(全三巻、桜楓社、1976年~1980年)などを用いて、概要調査を実施した。これらの先行調査には、重要な内容もいくらか指摘されているのだが、写本の名称が異なっているばあいもあり、その概要を知るためには不都合も多かった。この度、冊数や形態を整合させることによって、固有名称の統合を行うことができた。これに加えて、売り立て目録にも可能な限り目をとおし、現存写本のおおまかな全体像を明らかにした。さらに、たとえば、美術的な価値をもつ古写本のばあい、所蔵者が変更されることも多い。今後の調査にあたって必要不可欠な、現所蔵者の情報も収集した。 2, 悉皆調査における基準テキストとして、現存写本全体の中心に位置すると考えられる(1)深川本、(2)元和九年古活字本、(3)九条家旧蔵本、(4)伝為家筆本、(5)飛鳥井雅章筆本のテキストデータ化作業を実施した。 3, 悉皆調査の参考とするため、東海大学付属図書館において、『狭衣惜春抄』『狭衣物語系統早見』(どちらも桃園文庫)を調査した。前者は、『源氏物語』研究者として知られる池田亀鑑による『狭衣物語』注釈として注目できるものであり、いくつかの新見も認められることが確認できた。後者は、先ほどと同じく、池田亀鑑による『狭衣物語』の本文系統を分別する指標を定めたものであり、今後の調査に益するものであった。 4, 金沢大学附属図書館において、四高本を調査した。四高本は、重要テキストのひとつである蓮空本の欠巻部分を補う貴重な資料として知られていたにもかかわらず、これまで、転写本による翻刻しか存在していなかった。この調査によって、従来の翻刻の誤りを是正することが可能となった。
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