研究実績の概要 |
1, 押小路本、鷹司本、旧東京教育大学本(現、筑波大学蔵)の詳細な調査・検討を行ったほか、熊本大学において永青文庫本、昨年度に引き続き肥前島原松平文庫において松平文庫本の調査を実施した。また、国文学研究資料館が所蔵するマイクロフィルムによる調査も行い、主に、従来、詳しい考察が行われていない現存写本の調査をすすめた。この調査によって、既存の『狭衣物語』本文系統を少なからず見直さなければならないことが明らかになった。これらの研究成果は、随時、公開していく予定である。 2, 現存写本だけではなく、古筆切の調査・収集にもつとめた。おおよそ五十種二〇〇葉を超える断簡を確認することができた。 3, これまでの調査結果をもとにして、現存写本の書誌情報や翻刻・研究の有無をまとめた「狭衣物語諸本総覧」の執筆を進めた。現存する全ての諸本の情報をまとめるには到らなかったものの、個々の写本がもつ特徴を一覧にすることで、本文情報以外の共通点も発見することができた。『狭衣物語』の考察を前進させていくためにも、また、物語伝本の享受を考えていく上でも、必要不可欠な基礎資料ということができるだろう。 4, 『校本』を欠く巻四の研究を推進していくため、巻四の本文対照データの作成を行った。 5, 上記した諸本・古筆切研究のなかでも、特に、近世期の流布本、あるいは、それと深い関わりをもつと考えることができる押小路本グループの研究を進めた。 6, 狭衣物語の調査と関連して、源氏物語の諸本・享受の研究も行った。国文学研究資料館が所蔵する橋本本や鹿児島大学が所蔵する玉里文庫本の研究を実施し、鎌倉期写本がもつ書誌的特徴の一端を明らかにした。
|