第3年目にあたる平成30年度には、これまでに収集した地方公共図書館の事務文書の分析を中心に作業を行なった。特筆すべきは、NHKニュースで旧上伊那図書館(伊那市創造館)の文書資料が特集として取り上げられた際に、調査者として出演したことである。 特集は、「おはよう日本(関東甲信越)」(3/28)「イブニング信州」(4/3)「おはよう日本(全国)」(4/12)の3回にわたって放映された。特に、もっとも視聴者数が多かったと思われる1回目の放映後には、これまで知られていなかった歴史資料に関心をもった視聴者からの反応が多数寄せられた(3回目は全国放送だが、時間が朝4時台であった)。現代における言論の自己規制の問題とも絡むものなので、広く一般に資料の存在や意義をアピールできたことの意味は大きいだろう。 関連資料の収集にも力を入れてきた。今年度は特に、これまでに調査を行なってきた静岡県立葵文庫の事務資料そのものを入手することができた。GHQ占領期の図書没収に関する文書の綴りであるが、通知の日付や没収対象となった書名、図書館へ通知がもたらされるタイミングや指示系統がわかる資料であるので、本研究課題と強い関連を持つものである。文庫の事務資料が流出した経緯は定かでないが、今後この綴りも詳細に分析し、戦中・戦後にかけての言論統制の実態を通時的に明らかにしたいと考えている。 平成30年9月15日には、長野県図書館協会が主催する市民公開講座「図書館と知る自由」が伊那市創造館で開催された。これに講師として登壇し、学芸員の方とともに、旧上伊那資料から見えた戦前期の図書館と検閲との関連について講じた。参加者からは、文書のアーカイヴ化に関する問題の指摘を受けた。資料の共有をいかに進めるのかは、本研究で具体的に考えてこられなかった問題であるので、「資料の活用」とともに「それをいかに残すのか」を、今後の課題としたい。
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