大楽寺(富山県射水市)は、近世後期から明治初期にかけて当該地域における学びの場であったことが由来し、現在も多数の古典籍を有している。その種類は仏教書をはじめとして歴史・算術・医学・天文学など多岐にわたり、それらに加えて現住職が蒐集した文学関連の書物も多い。文学関連の書物では、北陸ではまとまった数の現物をみることが困難である戯作も含み、大変貴重である。本研究は、大楽寺・大楽寺住職個人が所有するこれらの書物のうち未調査であるもの、特に文学関連の書籍を中心に書誌データを収集し、所蔵資料の全体像を把握するとともに、地方における文学受容の在り方を探るという目的で始めたものである。 最終年度ではこれまでに採集した書誌データと写真に加え、新型コロナウイルス感染症の影響により現地調査ができず未採集であった分について、研究協力者とともに現地に赴き書誌データの採集と写真撮影を実施し、目録編集に際して不足していた情報を補った。また、期間中に得たデータをまとめて目録化し、研究成果報告書として印刷・発行した。これを富山県内の図書館及び博物館、国公立大学(医・工・商科系除く)附属図書館や一部私立大学附属図書館、研究者(個人)等に配布し、成果発表とした。 文学関連の古典籍の伝来について、特に山東京伝をはじめとした戯作類は近世後期から大楽寺が所有していたものではなく、現住職の祖父(京伝に縁のある両国回向院で修行された)によって蒐集されたものを、ご自身が受け継がれたことを機縁として徐々に蒐集したものであることがこれまでの調査でわかった。そのため当初の研究目的の一つであった「地方における文学受容の在り方に関する考察」の材料たりえなかったが、目録化によって資料の所在を明らかにしたことで、今後の文学研究発展のための情報発信となったと考えている。
|